楓橋夜泊  張継

   月落烏啼霜滿天

   江風漁火對愁眠

   姑蘇城外寒山寺

   夜半鐘聲到客船

   (PCにない旧字は常用漢字を
   用いています)



     (ふう)(きょう)()(はく)  (ちょう)(けい)   

  月落(つきお)(からす)()いて霜天(しもてん)()

  江風漁火(こうふうぎょか)愁眠(しゅうみん)(たい)

  姑蘇(こそ)城外(じょうがい)(かん)山寺(ざんじ)

   夜半(やはん)鐘声(しょうせい)客船(かくせん)(いた)

   

  


    

    
中国語による上の詩の朗読朗読

田原健一氏画


    【通釈】 起句 船中でうつらうつらしていると、烏の鳴き声が聞こえてくる。(もう夜明けかと驚いて
          外を伺うと)月は西に沈み厳しい霜の気配が天に満ちている。
        承句 江岸の紅葉した楓樹(ふうじゅ)が漁船のいさり火に映じ、旅の愁いで眠れぬ目にちら
          ちらとうつる。

        転句 おりしも、蘇州の町はずれの寒山寺から
       結句 夜半を知らせる鐘の音が聞こえて来た。(まだ夜半なのだ)

    【語釈】 
楓橋 江蘇省、蘇州の西郊にある楓江にかかった橋。
             夜泊 船の中に夜泊ること。
             霜滿天 霜の気配が天に満ちる。昔、中国では、霜は天から降ると考えられていた。
             江風 川岸の楓樹。楓はマンサク科・フウ属の樹木で秋紅葉する。日本のかえでとは別種。

             漁火 漁船のいさり火。
         愁眠 寂しい眠り。旅の寂しさや悲しみのために熟睡できず、うつらうつらしていること。
             姑蘇城 蘇州の町。呉の古都。

             寒山寺 蘇州郊外にある仏寺。昔、寒山(かんざん)・拾得(じっとく)が住んでいたと伝え
           られている。

      
    【押韻】 平声 、先韻、  天、 眠、 船。

    【解説】 張継は中唐の人。天宝十二年(753)の進士。
       この詩は作者が春秋戦国時代の呉の古都である姑蘇城(蘇州)地方に船旅の途中、楓橋の
       ほとりに船泊りした時の作。
       寒さの厳しい船中で熟睡も出来ず夜通しうつらうつらしている情景を目の前に見るように詠
       じた佳作です。
       寒山寺には清の人 兪樾(ゆえつ)の筆になるこの詩の石碑があり、その拓本が日本にも多
       く伝承している。又 戦前は旧制中学の漢文の教科書に採録されたことから、日本人に最も
       多く知られた漢詩の一つであった。

                                       以上
                                         (玉井幸久)