【通釈】 起句 桃の花は紅に咲き、昨夜からの雨をふくんでいっそうあでやかであり、
承句 柳の芽は緑にもえ、春のかすみを帯びてますますぼんやりと見える。
転句 落花が庭に散りしいているが、召し使いはまだ掃除もしていない。
結句 庭先きでは鶯がしきりに鳴いているのに、この山中に隠棲しているお方(王維自
身)はまだ眠っている。
【語釈】 宿雨 昨夜からの雨。
春煙 春がすみ。煙は霞、もや。
家僮 私家の召し使い。
山客 山中に住む人。又山を訪ねる客。ここでは王維自身を指す。
【押韻】 平声、先韻、煙、眠。
【解説】 王維(699-761)は盛唐を代表する詩人の一人。
この人の詩はすでに度々鑑賞してきた(平成25年9月、26年 6月、27年1月、「漢詩鑑賞」
欄をご覧ください)のでその経歴は省略します。
この詩は、「田園樂七首」と題した六言絶句の連作の一首で、 詩の制作時期について
異説があり、また別人の作とする説もあるが、ここでは、王維43歳の頃より移り棲んだ
藍田山中輞川の別荘での生活を詠じたものとして鑑賞する。
六言絶句という特異な詩型を採り、起・承句、転・結句それ ぞれ美しい対句の中に桃、
柳、落花、鶯、山客という詩語を ちりばめ、春ののどかな、画のような情景を美事に詠
じた作品です。
(玉井幸久)
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