京師得家書  袁凱

   江水三千里

   家書十五行

   行行無別語

   只道早歸鄕

   (PCにない旧字は常用漢字を
   用いています)



            

    京師(けいし)にて家書(かしょ)()たり 袁凱(えんがい)

   (こう)(すい) 三千里(さんぜんり)

家書(かしょ) 十五行(じゅうごぎょう)

(ぎょう)(ぎょう) 別語(べつご) ()

   (ただ) () (はや)(きょう)(かえ)


    

    
中国語による上の詩の朗読朗読

田原健一氏画


    【通釈】 起句 江水を三千里も隔てた国もとから、
        承句 届いた妻からの手紙はわずかに十五行ほど、
        転句 どの行も、どの行もほかのことは言わず、
       結句 ただただ、早く家に帰って下さいというばかり。

    【語釈】 
京師 都。この場合は南京。
             江水三千里 南京から作者の故郷松江までの距離。実際はそれ程離れてはいないが、
             三千は遠いことを強調する慣用法。

             家書十五行 当時の便箋は八行が規格であったので、便箋二枚をいう。
             起句の三千里と対語として短さを強調している。

             行行 どの行もどの行も。

             別語 ほかの言葉。
           道  言う。
      
    【押韻】 平声 、陽韻、  行、 郷

    【解説】 袁凱(生没年不詳)は明初の詩人。 松江(江蘇)の人。号は海叟(かいそう)。
       明の初代皇帝太祖(洪武帝)に仕え御史となったが、帝の不興をかい、退職し故郷に帰った。
       この詩は何等かの用件で南京に滞在中に、故郷に残した妻からの手紙を得て作ったもの。
       起句と承句を対句でまとめ、一切修飾語を排した簡潔な表現のうちに遠く国もとに残した
       妻から便りを得た喜び、妻の思い、又その妻へのいとおしみを美事に表現した逸品です。

                                       以上
                                         (玉井幸久)