囘鄕偶書 賀 知章 少小離家老大囘 鄕音無改鬢毛摧 兒童相見不相識 笑問客從何處來 中国語による上の詩の朗読 |
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田原健一氏画 |
【通釈】 起句 若いころに志を立てて故郷の家を離れ、(長い間の宮仕えの後)年をとって帰って来た。 承句 お国なまりは昔のままで改まっていないが、鬢の毛はすっかり薄くなってしまった。 転句 (迎えてくれた一族の)子供達は、私と顔をあわせてもお互いに見知らない。 結句 (子供達は)にこにこしながら、お客様はどちらからいらっしゃいましたかと尋ねるのだ。 【語釈】 囘鄕 故郷に帰る。 偶書 思いつくままに書きつける。 少小 年の若いこと。年若い時。 年少。 老大 年をとること。老年。 郷 お国なまり。 鬢毛摧 鬢の毛が薄くなること。テキストによっては鬢毛衰(鬢毛衰(おとろ)う) 児童 子供、この場合は一族のこどもと解す。 相見不相識 相はここではお互いに意。 【押韻】 平声十、灰韻 囘、 摧、 來。 【解説】 賀 知章(659-744)は盛唐前期の人。会稽永興(かいけいえいこう)(淅江省)に生れ、若くし て文才を知られた。都に上り、則天武光后の証聖元年(695)進士及第。官途は順調に累進した。 酒を好み、性格は磊落無欲で、玄宗皇帝に大いに気に入られた。李白の才を認め自ら皇帝に推挙 したことは有名である。 晩年願い出て職を辞し故郷、会稽に帰ったが、その時 玄宗皇帝は多年の労をねぎらい、詔をもっ て鏡湖という湖を賜った。 この詩はこの時 作者が故郷に帰った時の感慨をややユーモラスなタッチで歌ったもの。都で皇帝 の知遇を得るまでに出世しながら、お国なまりを改めない程に故郷を愛した作者が長い宮仕えの 後帰ってみると、すっかりよそ者になっているという悲哀の情が句間ににじみ出ている絶品です。 (玉井幸久) |