秋怨 魚玄機

   自歎多情是足愁

   況當風月滿庭秋

   洞房偏與更聲近

   夜夜燈前欲白頭

   (PCにない旧字は常用漢字を
   用いています)




     秋怨(しゅうえん) (ぎょ) (げん)()

 (みずか)(たん)()(じょう)()足愁(そくしゅう)なるを、

 (いわん)んや風月庭(ふうげつにわ)()つる(あき)(あた)るをや。

 洞房偏(どうぼうひと)えに更声(こうせい)(ちか)し、

 夜々(よよ)灯前(とうぜん)白頭(はくとう)ならんとす。

 中国語による上の詩の朗読朗読
田原健一氏画


    【通釈】 起句 自分でつくづく情なく思うのは、物事に感じやすく人を思う心が多いばかりに、
          いつも愁いを抱き悲しんでいることです。
        承句 ましては、今は秋風が吹き、明月の光が庭一面に照りそそぐ季節。
        転句 しかも私の寝室のすぐ近くから夜の時を告げる太鼓の音が(独り寝の私にあて
          つけるように)響いてきます。
       結句 こうして私は毎夜毎夜、ともしびの前で、空しく太鼓の音を聞きながら、みど
          りの黒髪も白くなろうとしているのです。

    【語釈】 秋怨 秋の夜の女性の悲しみ。
            多情 ものごとに感じやすく、人を思う心が多いこと。
             足愁 愁いが多いこと。
             風月 清風と明月。又男女の情事を寓意する。
             洞房 女性の寝室。
             偏  甚だしくある状態に偏っていること。「いやなことに」の意を含む。
             更聲 夜の時を告げる太鼓の音。
             白頭 しらが頭。

    【押韻】 平声 、十一尤韻  愁、 秋、 頭。

    【解説】 魚玄機(843 - 868)は晩唐の女流詩人。
       長安の遊里の生まれという。幼少の頃から読書を好み詩才があった。十七、八歳の時、
       当時補闕の地位にあった。李億(りおく)の妾となったが、その愛が衰えると、道教
       の名刹 咸宜観(かんぎかん)に入って女道士となった。
       以後、多くの名士と親交を結び、詩を応酬し多情な生活を送ったが、最後は恋人をめ
       ぐり、自分の侍女を笞で打ち殺したため捕えられて処刑された。時に二十六歳の若さ
       であった。
       この詩は、自らの多才と多情の故に身を滅ぼした恋多き女流詩人がひそかに思いを寄
       せる人、あるいは去って行った人に贈ったものと見られる傑作の一つです。
                                         以上
                                         (玉井幸久)