對酒  白居易

   蝸牛角上爭何事

   石火光中寄此身

   隨富隨貧且歡樂

   不開口笑是癡人

   (PCにない旧字は常用漢字を
   用いています)



    (さけ)(たい)  (はく)(きょ)()

  蝸牛(かぎゅう) 角上(かくじょう)  何事(なにごと)をか(あらそ)

  石火(せっか) 光中(こうちゅう) ()()()

  (とみ)(したが)(ひん)(したが)(しば)らく歓楽(かんらく)せん 

  (くち)(ひら)いて(わら)わざるは()痴人(ちじん)



中国語による上の詩の朗読朗読

田原健一氏画


    【通釈】 起句 かたつむりの角の上のような小さなこの世界で何を争うのか、
        承句 火打ち石を打って発する火花のように、はかなく短い時間だけの人生だというのに。
        転句 富めば富んだで、貧しければ貧しいなりに先ずは人生を楽しもう、
       結句 大きく口をあけて笑わぬ奴はおろか者だ。

    【語釈】
蝸牛角上  蝸牛はかたつむり。かたつむりの角の上での戦い。「荘子」則陽編にみえ
            る寓話にもとづく。蝸牛の左の角の上には触代、右の角の上には蛮代が、
            それぞれ国をかまえて土地の争いをしたと。
            小さなことを相争うのを嘲った句。

            石火光中 石火光は、火打ち石を打って発する光、極めて短い時間のたとえ
             且 まずは。とりあえず。
             
開口笑 口をあけて愉快に笑う。
          「荘子」盗跖編に「人上寿は百歳、中寿は八十、下寿は六十。病痩、死喪、
           憂患を除き、その中に口を開いて笑うは、一月のうち四五日に過ぎざる

           のみ」とあるを承ける。

             癡人 おろか者。

             
    【押韻】 平声 、真韻、 身、人。 起句は踏み落とし。

    【解説】 白居易(772-846)、字(あざな)は楽天。中唐を代表する詩人。29歳で進士、35歳で
       更に上級試験に及第、高級官僚となった。この頃からさかんに諷諭詩を作り社会批判を
       おこなったが四十四歳の時 江州(江西省九江)に左遷されてから閑適・感傷の詩が多
       くなった。 その後、中央政府勤務と地方長官(杭州・蘇州)をくりかえし、後年は仏
       教に帰依、又道教に傾斜した。晩年は洛陽に隠棲し、75歳で没した。
                                       以上
                                         (玉井幸久)