村夜   白居易

   霜草蒼蒼蟲切切

   村南村北行人絶

   獨出門前望野田

   月明蕎麥花如雪

   (PCにない旧字は常用漢字を
   用いています)



   

  

    (そん)()   (はく)(きょ)()

  (そう)(そう)蒼蒼(そうそう) (むし)切切(せつせつ)

 (そん)(なん) (そん)(ぼく)  行人(こうじん) ()

 (ひと)門前(もんぜん)()でて 野田(やでん)(のぞ)めば

  (つき) (あき)らかにして蕎麦(きょうばく) (はな) (ゆき)(ごと)


    

    
中国語による上の詩の朗読朗読

田原健一氏画


    【通釈】 起句 霜枯れた草は生気なく青白く照らされ、虫の声がしきりに聞こえる、
        承句 村の南にも村の北にも、道行く人影は無い。
        転句 ひとり門前に出て、野中の田の方をながめると、
       結句 さやかな月明かりのもと、一面の蕎麦(そば)の花が雪のように白い。

    【語釈】 
霜草 霜に打たれて枯れた草。
             蒼蒼 この場合は青白い色。
             切切 虫の声が細く絶え絶えに続くさま。
             野田 野中の田。

             蕎麥 そば。白い花をつける。

      
    【押韻】 仄声 、屑韻、  切、 絶、 雪。

    【解説】 白居易は中唐を代表する詩人。この人の詩は本年6月にも鑑賞しました。 作者は40歳
       の時、母の死に逢った。それまで順風満帆に歩んで来た彼の高級官僚人生の最初の大
       きな悲しみであった。
       彼は直ちに官を辞し、故郷である下邽(かけい、陝西省)の田舎に帰り、三年間の喪に
       服した。
       この詩はその時の作で、月明りの下 人影もない村里の一面 雪のように白い蕎麦畑と
       鳴きすだく虫の音、その中に一人立つ作者の姿が目に見えるようです。
       それにより、作者の深い、孤独な悲しみを美事に表現することに成功した佳作です。
       なお、屑韻がより一層悲しみを増幅しています。

                                       以上
                                         (玉井幸久)