秋日田園雜興 范成大 垂成穡事苦艱難 忌雨嫌風更怯寒 牋訴天公休掠剩 半償私債半輸官 中国語による上の詩の朗読 |
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田原健一氏画 |
【通釈】 起句 農事は、もうすぐ収穫という時にひどく苦労するものだ。 承句 雨が降らないかと恐れ、風をきらい、そのうえ寒さにやられぬかとおびえねばならぬ。 転句 お天道さまにお願いします、どうか雨、風、寒さを降して収穫をかすめとるような事を おやめください。 結句 収穫の半分は一年間に積った借金の返済にあて、半分はおかみにさし出す供出米なのですから。 【語釈】 穡事 農事。穡は穀物を収穫する意。 垂 なんなんとす。もう少しで・・・になろうとしている。 牋訴 文書をもって上に訴えること。牋は文書。 天公 天の神。 掠剩 農民から税として穀物を供出させる時、役人が升をごまかして余分にとりたてること。 ここでは天が災害を降して穀物を減収させることを天が掠剩すると見立ているが、同時 に役人の掠剩への恨みをも含んでいると見るべ きであろう。 私債 個人的な借金。 輸官 税としておかみに供出すること。輸はさし出す。 【押韻】 平声十四寒韻 難、 寒、 官。 【解説】 范成大(1126-1193)は南宋の有能な愛国政治家。四十九歳で宰相になり、北方の金に使し、 金の皇帝の前に堂々と困難な交渉に当った。 晩年は郷里蘇州に隠退し、四季の農民の暮らしぶりを詠じた連作「四時田園雑興」六十首を作 った。その中の一首「冬日田園雑興」は平成二十五年十一月この欄で鑑賞した。 今回鑑賞するのは同じく四時田園雑興六十首の中の一首で、秋の収穫を迎える農民の思いを詠 じたもの。農民にとって秋 最も心配するのは天候のこと、そして無事収穫を終えると今度は借 金のとり立てと、お上への供出米をかすめ取る役人への対応。それが済むとあとには何も残ら ず、又借金生活に入るという農民の暮らしぶり愛情深く詠じた作品です。 (玉井幸久) |