雪梅
           方岳

   有梅無雪不精神

   有雪無詩俗了人

   薄暮詩成天又雪

   與梅併作十分春

   (PCにない旧字は常用漢字を
   用いています)




     雪梅     方岳

 (うめ)()りて(ゆき)()ければ精神(せいしん)ならず、

 (ゆき)()りて()()ければ(ひと)俗了(ぞくりょう)す。

 (はく)()()()って(てん)(また)(ゆき)ふる、

 (うめ)(あわ)()十分(じゅうぶん)(はる)

 中国語による上の詩の朗読朗読
田原健一氏画


    【通釈】 起句 梅が咲いても、雪が降らなければ、生気ある美しい景色とはならない。
             承句 梅と雪がそろっても、詩心が起らぬようでは俗物だ。
             転句 夕暮れに詩が出来上がり、ちょうど天から雪も降って来た。
             結句 梅と雪と詩と三つがそろって、これで完全に春を満喫出来るというものだ。

    【語釈】 精神 ①こころ、たましい。
          ②気力、元気。
          ③生気、光彩があって美しいこと。
          この詩では③の意。
            俗了  俗化してしまう。
           無学、無風流なものとしてしまう。
             十分春 完全な春。

    【押韻】 平声 十真韻   神、人、春

    【解説】 方岳(1199-1262)は南宋の人。1232年進士及第。才気鋭く、詩文に秀れ、名言佳
       句の多いこと天性のものであったという。
       この詩も、宋代の詩の特徴をもって、多少理屈っぽさはあるものゝ、梅、雪、詩の
       字を上手に多用し、又、精神、俗了というやゝ詩的でない語を用いながら嫌みのな
       い美しい詩に仕上げた手法は美事という他はない。
       宋代 梅を詠じた詩の佳作の一つと云えます。                了
                                        (玉井幸久)