富士山 石川丈山

   仙客來遊雲外巓

   神龍棲老洞中淵

   雪如紈素煙如柄

   白扇倒懸東海天

   (PCにない旧字は常用漢字を
   用いています)




   富士山 石川丈山

 (せん)(きゃく)(きた)(あそ)ぶ 雲外(うんがい)(いただき)

 (しん)(りゅう)()()ゆ (どう)(ちゅう)(ふち)

 (ゆき)(がん)()(ごと)く (けむり)()(ごと)

 白扇(はくせん)(さか)しまに(かか)る 東海(とうかい)(てん)

 中国語による上の詩の朗読朗読
田原健一氏画


    【通釈】 起句 雲の上にそびえる巓には、仙人がやって来て遊んでいる。
        承句 また麓の洞穴の深い淵の中には神竜が棲んでいる。
        転句 この富士山にまっ白に積っている雪は、まるで清らかなしろ絹のようであり、
          山頂から吹き上がっている煙は柄のようである。
       結句 それはちょうど、白い扇をさかさまにして、東海の空にかけているようだ。

    【語釈】 仙客 仙人。
            神竜 ふしぎな竜。
             紈素 白い練り絹。

    【押韻】 平声 、先韻  巓、 淵、 天。

    【解説】 作者 石川丈山(1583-1672)は江戸初期の詩人。名は重之(しげゆき)。三河の人。
       家は代々徳川家の旗本。大阪夏の陣に随い、抜けがけの功をあせりとがめられ、武士
       をやめ学問に専念した。
       林羅山らと交わり、京都郊外に隠棲、屋敷を詩仙堂と称しそこで文筆生活を送り、
       九十歳の天寿を全うした。
       詩風は高潔、江戸初期を代表する詩人の一人となった。
       この詩は、それまで曾て詠じられることの無かった富士山を初めて詠じた詩として
       知られ、またその結句にみる発想のユニークさでも有名である。
       爾来多くの詩人が富士山詩に挑んでいるが、この山を詠じきるのは至難の業とされ
       ています。                             了
                                         (玉井幸久)