【通釈】 起句 中庭の地面は月光を受けて白く輝き、庭の樹上では 鳥がねぐらについている。
承句 ひややかな露が音も無く結び、木犀の花を濡らしている。
転句 こよい、さえわたったこの満月を人は皆眺めているのだろうけれど、
結句 (私と同じように)秋の夜のもの思いにふけているのはどこのどんな人であろうか。
(貴方はどうであろう。)
【語釈】 中庭 なかにわ。
冷露 ひややかな露。 露は月光の雫によって結ばれるとされていた。
桂花 木犀の花。月世界にも生えているとされる。
愁思 秋のもの思い。
【押韻】 平声、麻韻。鴉、花、家。
【解説】 王建(755?‐831?)、字は仲初。中唐の詩人。
穎川(えいせん)(河南省)の人。大曆十年(775)進士及第。 楽府体の詩にすぐれ、宮中の女性
の心情をうたった宮詞一百首で有名。
この詩の詩題は、全唐詩では「十五夜望月寄杜郎中」となっている。 従ってここでは、作者が
八月十五夜の明月を愛でながら友人の杜某を懷かしむ詩として鑑賞する。
皓皓とさえわたる月光を、地面に照りはえる白い光と、それに影を落とす庭木、更に香り高い
木犀に結ぶ露によって、間接的に美しく詠じ、そのあたかも月世界のような静けさの中で、 独り
秋のもの思いにふけりつつ友を思うという、しみじみとした情景を余韻を残しつつ美事に吟じた
名作です。
(玉井幸久)
|