冬夜讀書  菅 茶山

   雪擁山堂樹影深

   檐鈴不動夜沈沈

   閑收亂帙思疑義

   一穗靑燈萬古心


   (とう)()読書(どくしょ)、  (かん) 茶山(ちゃざん)

   (ゆき)山堂(さんどう)(よう)して樹影(じゅえい)(ふか)く、

    檐鈴(えんれい)(うご)かず(よる)沈沈(ちんちん)

    (しずか)乱帙(らんちつ)(おさ)めて疑義(ぎぎ)(おも)

    一穂(いっすい)(せい)(とう)万古(ばんこ)(こころ)
 中国語による上の詩の朗読
田原健一氏画
    【通釈】 起句  降り積もる雪は山中の庵を覆いつくし、雪に埋もれた樹木の影は深々と見える。
             承句 軒端の風鈴はひっそりと音もたてず、夜はしんしんと更けてゆく。
             転句 机上にとり散らした書物を心しずかにかたづけ、疑問のところを考えていると、
             結句 稲穂のような灯火の青い炎のもとに、遠い昔の聖賢の真意が伝わってくる。

    【語釈】 擁  いだく。うずめる。ここでは覆いつくす意。
             山堂 山中の家。作者の居る庵。
             檐鈴 軒端につるしてある風鈴。
             沈沈 夜のふけるさま。
             閑  しずかに。
             亂帙 とり散らかした書物。帙は書物を包む覆い。転じて書物。
             疑義 意味のはっきりしないところ。
             靑燈 ともしびの青い色。灯火。
             萬古心 遠い昔の聖賢の心。

    【押韻】 平声 十二侵韻   深、沈、心。

    【解説】 菅 茶山 (1748- 1827)は江戸時代の儒学者。
       頼山陽等と共に江戸後期を代表する漢詩人の一人。備後の人。若くして京に上って
       勉学し、故郷、神辺(かんなべ)に帰り、黄葉夕陽村舎(こうようせきようそんしゃ)
       という熟を開き青年を指導した。
       この詩は、学問、読書の楽しみを詠じたもの。
       青い灯火のもとで古典を繙き、しずかにその真意を考えている儒者の姿を見事に詠
       じた傑作です。 
                                        (玉井幸久)