「尋隱者不遇」 ()(とう)

   松下問童子

   言師採藥去

   只在此山中

   雲深不知處


    隱者(いんじゃ)(たず)ねて()わず」

    (しょう)() (どう)()()う、

    ()()(やく)()りに()ると。

    ()()山中(さんちゅう)()らんと、

    (くも) (ふか)くして(ところ)()らず。

   中国語による上の詩の朗読朗読 
田原健一氏画
    【通釈】 起句  山中に隠者の住いを尋ねて行き、松の木の下に居た子供に「先生はおいで
           かな?」と尋ねると、
             承句 「先生は薬草採りに出かけました」との返事。
             転句 きっとこの山中にいるにはちがいないが、
             結句 なにぶん雲が深くたちこめて所在が知れず、遇わないまゝ帰って来たことで
          あった。

    【語釈】 隱者  俗世を避けて隠れて住む人。
             童子 こども、召し使いの子供。
             師  先生、師事する人。
             薬  薬草。
             去  行く。
             只在 きっといるにちがいない。只はここでは推量を強調する語。

    【押韻】 去声六御韻、去、處。

    【解説】 賈島(779-842)は范陽(今の河北省)の人。はじめ出家して僧となったが、韓愈にすす
       められ還俗し、進士に及第した。韓愈との出会いは推敲の故事で知られている。又、
       自ら苦吟したことで有名。
       この詩は知人の隠者を尋ねて会えなかった事を詠じたものであるが、短い詩中に松下
       ・童子・薬・山中・雲 等の語を配し、隠逸の住まいの様子を美事に画き出した名吟
       です。
                                          (玉井幸久)