別董大   高適

   十里黄雲白日曛

   北風吹雁雪紛紛

   莫愁前路無知己

   天下誰人不識君



    董大(とうだい)(わか)る   高適(こうせき)

   (じゅう)()黄雲(こううん) 白日(はくじつ) (くら)

   北風(ほくふう) (かり)()いて (ゆき)紛々 (ふんぷん)

   (うれ)うる()かれ (ぜん)() 知己(ちき) ()きを

   (てん)() 誰人(だれひと)か (きみ)()らざらん

 中国語による上の詩の朗読朗読
田原健一氏画

    【通釈】 起句 十里のかなたまで、黄塵でどんよりとした雲がたれこめ、太陽がうす暗い。
             承句 折から北風が、空を渡る雁に激しく吹きつけ、雪が紛々と降りしきっている。
             転句 この激しい風景の中に旅立って行く董君よ、これからの旅先に、自分を理解し
          てくれる人が居ないなど心配したもうな。
             結句 この天下に君(が琴の名手であること)をしらぬ者などはいないよ。

    【語釈】 董大 人名、琴の名手であった董庭蘭とされている。董が姓、大は排行で兄弟、従兄
          弟の最年長の意。
            十里 千里となっている本もある。
             黄雲 黄色い雲、塵やほこりの為に黄色を帯びた雲。
           又、めでたい雲、或いは稲や麦などの熟した時の形容に用いることがあるが、
           この場合はとらない。
             白日 太陽。
             曛  淡い日の光。又、ほの暗い。
             紛紛 乱れるさま。
             前路 これから行く道、行くさき、将来、前途。
             知己 自分を理解してくれる人。

    【押韻】 平声十二文韻  曛、 紛、 君。

    【解説】 高適(707?-765)は盛唐の詩人。李白、杜甫等と親交があった。安禄山の乱に際し、
       乱の平定に功を挙げ、官吏としても出世し、渤海県侯に封ぜたれた。 この詩は、董
       蘭がある事件に関与し、心ならずも放浪の旅に出るのを送る詩である。起句、承句
       に厳しく心細い風景を歌い、転句、結句で、「心配するな」と力づけ励ます作者の温
       かい心情が伝わって来る。送別詩の名作の一つです。
                                        (玉井幸久)