山亭夏日 高駢 綠樹陰濃夏日長 樓臺倒影入池塘 水精簾動微風起 一架薔薇滿院香 (PCにない旧字は常用漢字を 用いています) 中国語による上の詩の朗読 |
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田原健一氏画 |
【通釈】 起句 あおあおと生い茂った木々のかげは色濃く、長い夏の日の日ざしのもと、 承句 池のほとりの高殿は、その姿をさかしまにして、静かな水面に影を落している。 転句 水晶のかざりついた美しい簾が、そよ風を受けてかすかに揺れ動き、 結句 棚いっぱいに咲いている薔薇(ばら)の花の香りが庭じゅうに満ちている。 【語釈】 山亭 山中の別荘。 陰濃 木々の葉が生い茂って、色濃くなっていること。 楼台 たかどの。二階建て以上の建物。 影 水に映った姿。 池塘 ①大きな池。②池のつつみ。ここでは前者。 水精 ①水精(すいしょう)は水晶。②水精(すいせい)は水の精。ここでは前者。 一架 (薔薇を支える)棚いっぱいの。 満院 庭じゅう。院は中庭。 【押韻】 平声 、七陽韻 長、 塘、 香。 【解説】 作者 高駢(こうべん、821 - 887) は幽州(河北省)の人。権勢の家柄に生れ、学問、 武芸に優れ、地方長官や節度使等を歴任、晩唐の大乱 黄巣の乱で功あり、渤海郡主に 封ぜられたが、最後は武将に殺された。 この詩は、山中の別荘での静かな夏の日の優雅な趣きがあふれる情景を見事に画き出し た佳作です。 楼台、池塘、水精簾、薔薇等を品よくちりばめ、読む人をしてその庭に坐っているよう な気分にさせるところは流石です。 当時 唐の治世は漸く衰え、世情は騒然としていました。或は作者自身、その乱世なれ ばこそ このような優雅なひとときを、いっそう大切に感じていたのかも知れません。 以上 (玉井幸久) |