【通釈】 起句 世の人々は、夏の暑さを避けようと、まるで狂ったように
右往左往しているが、
承句 恒寂禅師だけは、座禅室から外に出られることはない。
転句 これは決して、座禅堂に熱が入ってゆかないなどということではない。
結句 ただ禅師が心静かに禅の修行をして居られる為、身体も自然と涼しいのだ。
【語釈】 苦熱 暑さに苦しむ。
作者が暑さに苦しみながら、の意。
恒寂師 禅僧の名。禅師は徳の高い禅僧。
禅室 禅を修行する部屋、禅房。
題 書きつける。~について詠ずる。
恒寂禅師の禅室の壁に書きつけた詩の意。
【押韻】 平声、陽韻。狂、房、涼。
【解説】 白居易(772‐846)、字(あざな)は楽天。
中唐を代表する詩人。二十九歳で進士。三十五歳で更に上級試験に及第、高位官
僚となった。
元稹、劉禹錫、韓愈等当時の顕官達と親しく交り、自らも顕職に就いたが、努めて
政争に関ることを避けた。
晩年は洛陽に半ば隠棲し、佛教に帰依し、洛陽近くの香山寺の僧と交り、自ら香山
居士と号するなど満ち足りた老境を楽しみ、七十五歳の長寿を全うした。
この詩は、親しい友人である禅僧の座禅堂の壁に書きつけたもので、白居易自身の
禅に対する信仰と憧憬が巧まず表現された作品となっています。
(玉井幸久)
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