中国語による上の詩の朗読朗読
牛山香流氏画


    【通釈】 起句 昨夜のひとしきりの雨、
        承句 いよいよ、天のおぼしめしが万物を蘇らせようとしているのだ。
        転句 それを最も先に知るのは何物だろう、
       結句 それは、今まで何も無かった庭に、先を争うように芽を出し始めた草々だ。

    【語釈】
霎   こさめ。霎雨は、ひとしきり降る雨。
       天意  天の心。天の意志。
       群物  もろもろの物。万物。

    【押韻】 入声、物韻。質韻の通韻。物、出。

    【解説】 孟郊(七五一‐八一四)は中唐の人。字は東野。はじめ嵩山(すうざん)に隠棲していたが、
       母に励まされて学に志し、何度も落第の後、四十六歳の時科挙に及第した。
       韓愈に認められ、生涯の交りを結び、官途についたが役所の仕事を好まず、専ら郊
       外に出て詩を作っていた為減給され、生活は貧しかった。
       作風は苦吟で知られ、とぎすまされた感性の凝縮した詩を作り、賈島の作風と併せ
       て「郊寒島瘦」(孟郊の詩は寒々としており、賈島の詩はやせこけている)と称さ
       れた。
       この詩は、平易な用語の中に、一夜の春雨の後の庭先の何気ない風情を詠じ、そこに
       自然(天)の意志を見る感動と、更には庭に一斉に萌え出る草々への愛情さえも感じ
       させる、温かく美しい作品となっています。
                                      (玉井幸久)