梅花  王 安石

     牆角數枝梅

     凌寒獨自開

     遙知不是雪

     爲有暗香來


       梅花(ばいか)    (おう) 安石(あんせき)

      (しょう)(かく)(すう)()(うめ)

      (かん)(しの)いで独自(どくじ)(ひら)く。

      (はる)かに()(これ)(ゆき)ならざるを

      (あん)(こう)(きた)()るが(ため)なり。

 中国語による上の詩の朗読朗読
田原健一氏画
    【通釈】 起句 かきねの隅の梅の数本の枝が、
             承句 寒さにめげず、ひとりだけ花を咲かせている。
             転句 遠くから見ても、これは雪ではないことがわかる、
             結句 それは、どこからともなくよい香りが漂って来るからだ。

    【語釈】 牆  かきね。土塀。
             凌寒 寒さをしのぐ。寒さをものともせず。
             獨自 ひとりだけ。
             暗香 どこからともなく漂ってくる香り。

    【押韻】 平声 十灰韻   梅、開、來。
       五言絶句では普通 承句と結句に押韻するが、この詩では起句も押
       韻している。

    【解説】 王 安石(1021- 1086)は北宋の大政治家であり、文豪且つ大詩人。
       臨山(りんせん、江西省)の人。22歳の若さで進士及第。長く地方勤
       務し、政治の腐敗と国力の衰退を嘆き政治改革を提唱。
       50歳の時、神宗皇帝の信任を得て宰相となり、その後6年間いわゆ
       る新法改革を断行、その後 南京郊外に隠居した。
       しかし、多くの政敵を作り、神宗皇帝の死後は新法党の果てしない
       政争を生じ、終に国力は回復せず、北宋は金の侵略により滅亡した。
       この詩は、困難な政治状況の下、断固改革を推進せんとする自らの
       心境を梅花に託したもので、政治家 王 安石の面目を示す絶品です。
                                 (玉井幸久)