鐘山即事
         王 安石

   澗水無聲遶竹流

   竹西花草弄春柔

   茅簷相對坐終日

   一鳥不啼山更幽

   (PCにない旧字は常用漢字を
   用いています)




     鐘山(しょうざん)即事(そくじ)    (おう)安石 (あんせき)

   澗水(かんすい) (こえ)()(たけ)(めぐ)って(なが)

   竹西(ちくせい)()(そう)春柔(しゅんじゅう)(ろう)

   茅簷相対(ほうえんあいたい)して()すること(しゅう)(じつ)

   一鳥(いっちょう) ()かず 山更(やまさら)(ゆう)なり

 中国語による上の詩の朗読朗読
田原健一氏画


    【通釈】 起句 谷川はせせらぐ音もなく、書斎の庭の竹をめぐって流れている。
             承句 竹の茂っているあたりの西側では、咲き乱れている花々や、萌え出たばかりの
           草々が、春の柔らかな姿を存分に見せている。
             転句 かやぶきの軒端で、鐘山と向い合って一日中座っていると、
             結句 周囲は、鳥一羽鳴くでもなく、山はいっそう奥深い静けさをますばかりである。

    【語釈】 鐘山 南京(江蘇省)の郊外にある山の名。王安石は晩年この鐘山の近くに隠居 した。
            即事 その場のことを題材として詩を作ること。
             澗水 谷川。
             弄春柔 春の柔らかさを存分に具現している。
             茅簷 かやぶきの軒

    【押韻】 平声 、尤韻  流、 柔、 幽。

    【解説】 この詩は王安石が宰相の職を辞し、鐘山の近く近くに隠退した後の悠然とした自らの心
       境を、彼が最も愛した鐘山を引きあいとして詠じた佳作です。 転句は、李白の詩「獨坐
       敬亭山」((ひと)敬亭山(けいていざん)()す)の転・結句「相看兩不厭、只有敬亭山」((あい)()(ふた)つな
       がら(いと)わざるは、()敬亭山(けいていざん)()るのみ)を意識しています。また結句は、六朝梁の王籍(おうせき)
       の詩「入若耶溪」((じゃく)()(けい)()る)中の句「蝉 噪林逾静、鳥鳴山更幽」((せみ)(さわ)ぎて(はやし)
       (いよいよ)(しず)かに、(とり)()いて山更(やまさら)(ゆう)なり」)が念頭にあること明らかです。   了
                                           (玉井幸久)