【通釈】 起句 雨の降る前に、花は蘂がやっと見える程に開いたばかりであったのに、
承句 雨があがって見ると、もう茂った葉の中に花は全く無い。
転句 蝶がひらひらと飛んで来たが、かきねを過ぎて行ってしまった。
結句 ふと思う、春景はもう隣の家に行ってしまったのだろうかと。
【語釈】 初 はじめて。…したばかりの意。
蘂 しべ、花蕊。
兼 この場合は尽の意。無を強調したもの。
蛺蝶 ①蝶の総称。②あげは蝶。
牆 かきね。
卻疑 ふと疑う。卻はそのようなことはないのにの意。
春色 春の景色
【押韻】 平声、麻韻。花、家。起句は踏み落とし。
この詩のように、起句、承句が対句の場合、多くは起句を踏み落とす。
【解説】 王駕は晩唐の人。字(あざな)は大用。昭宗の大順元年(八九〇)進士及第。自ら
守素先生と号した。
此の詩は、庭の春景色の移ろいの様子を軽妙なタッチでさらりと詠じたもので、
読後にさわやかなあと味をのこしてくれる佳作です。
尚この詩は、三体詩、連珠詩格に詩題を晴景として採録されているが、ここでは
全唐詩に從い「雨晴」を採用した。
(玉井幸久)
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