【通釈】起句 鵝湖山のふもとの村々は稲も粱も豊かに実り、清らかですがすがしい。
承句 家々の豚小屋も雞小屋も戸は半分開いたまま。
転句 道ばたの桑の木に、夕日が斜めに落ちる頃、秋祭りの賑わいも散り散りになり、
結句 人々は家ごとに、酔った老人をかかえるようにして帰って行く。
【語釈】 社日 土地の神を祭る日。むらまつり。春の社日を春社といい、五穀の豊穣を祈り、
秋の社日を秋社といい、豊穣を報告し感謝する祭。
鵝湖山 山の名。江西省、鉛山県。(鄱陽湖の東南にある)
稻粱 いねとあわ。穀物をいう。梁はおおあわ。粟に似て大粒。
豚柵 豚小屋のかこい。
雞棲 雞小屋。
桑柘 くわ。柘はやまぐわ。桑の一種。
【押韻】 平声、微韻。肥、微、歸。
【解説】 王駕(八五一‐?)は晩唐の人。字は大用。
大順元年(八九〇)の進士。礼部員外郎に任じられたが、官を棄てて隠遁した。
この人の詩「雨晴」は平成三十一年三月、鑑賞した。 今回の詩は、江南農村地方、
豊年の秋の平和な光景を、さながら眼前に見るように美しく詠じた傑作です。
このような光景はわが国でも、戦前までは普通に見られたもの。 但実際は、
この詩の詠じられた当時、唐朝は末期の動乱中で、都の騒々しい政情に失望した
作者の胸中はこの平和な農村風景を前にして一層複雑であったに違いありません。
(玉井幸久)
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