送元二使安西  王維

   渭城朝雨浥輕塵

   客舍靑靑柳色新

   勸君更盡一杯酒

   西出陽關無故人


   (げん)()安西(あんせい)使(つかい)するを(おく)る  (おう)()

   ()(じょう)(ちょう)() 軽塵(けいじん)(うる)おし

   (かく)(しゃ) 青青(せいせい) (りゅう)(しょく) (あらた)なり

   (きみ)(すす)(さら)()くせ一杯(いっぱい)(さけ)

   西(にし)のかた陽関(ようかん)()づれば()(じん) ()からん


 中国語による上の詩の朗読朗読
田原健一氏画
    【通釈】 起句 渭城の町は、夜来の雨で土ぼこりも上がらずしっとりとうるおっている。
             承句 (昨夜別れの宴を催した)宿屋の前には、芽ぶいたばかりの柳が水を含んで、青々と
          いっそう色鮮やかである。
             転句 さあいよいよお別れだ、元君どうぞもう一杯飲んでおくれ。
             結句 これから西に旅して、陽関の関所を出れば、もう一緒に酒をくみ交す友人もいないだ
          ろう。
     
    【語釈】 元二 人名。元は姓、名は不詳。二は一族中の兄弟、いとこの中の年齢順が二番目の意。
          この呼び方を排行という。
            安西 地名。今の甘粛省の西端の要衝の地。唐代、ここに西域守護の為の安西都護府があった。
             渭城 咸陽の別名。都 長安の北、渭水をはさんだ対岸にある。当時 西方に旅立つ人をここまで
          見送るのが常であった。
             朝雨 朝の雨。
             浥  うるおす。ぬらす。
             客舎 旅館、宿屋。前夜ここで送別の宴を張ったことを暗示する。
             柳色新 雨で柳の色が一そう鮮やかになったこと。
           当時、遠く旅立つ人に無事の帰還を祈り、柳の小枝を丸めて餞別に手渡す風習が
           あった。
             陽関 甘粛省、敦煌の近くにある関所。古来、玉門関とともに西域に往来するとき必ず通る
          関所。玉門関の南にあるので この名がついた。
             故人 友人、古くからの友人。

    【押韻】 平声 十一真韻  塵、 新、 人。

    【解説】 王維(699-761)は盛唐期を代表する大詩人の一人。
       経歴は平成25年9月の解説(漢詩鑑賞欄)参照。
       この詩は作者の友人の元某が朝命を帯びて、遥か西の果て安西に旅立つのを見 送った時の
       作で、古来 送別詩の代表的傑作とされているものです。 この詩が出来た唐代から、送別の
       席で盛んに歌われるようになり、詩の一部の句、或は全句を三度くりかえして歌ったことか
       ら陽関三畳 或いは陽関曲と呼ばれ、やがてこの語が送別の歌を意味するようになりました。
                                        (玉井幸久)