新嫁娘 王建

   三日入厨下

   洗手作羹湯

   未諳姑食性

   先遣小姑嘗

   (PCにない旧字は常用漢字を
   用いています)




     (しん)()(じょう)  王建(おうけん)

   (みっ)()にして(ちゅう)()()り、

   ()(あら)いて羹湯(こうとう)(つく)る。

   (いま)(しゅうとめ)食性(しょくせい)(そら)んぜず、

   ()(しょう)()をして()めしむ。

 中国語による上の詩の朗読朗読
田原健一氏画


    【通釈】 起句 嫁入りして三日目、いよいよ台所に入り新妻のしごとはじめ。
             承句 手を洗い、気を引き締めてあつもの(スープ)作りにとりかかる。
             転句 ただ心配なのは、お姑の味の好みがわからないこと。
             結句 まず、そっと、小姑(夫の妹)に味見をしてもらいましょう。

    【語釈】 新嫁娘 お嫁入りしたばかりの若妻。娘は若い女。婦女。
            厨下 台所。
             羹湯 あつもの。肉や野菜をまぜて作ったスープ。
             諳  そらんず。暗記する。ここでは十分に知りつくす。
             食性 食物や味の好み。
             遣  ・・・をして・・・せしむ。使役の助動詞。
             嘗  なめる。味わう。

    【押韻】 平声 、七陽韻  湯、 嘗。

    【解説】 嫁いで来たばかりの若妻が、婚家の家風も十分にわからぬまま、不案を抱きつつもかいがい
       しく台所に立ち働きはじめた様子を詠じたほほえましい作品です。
       「手を洗い」という、やや平凡な用語により、これからこの家の嫁としての初仕事を、気持
       を引き締めてやるぞといういじらしい心情がかえって見事に表現されています。さぞや姑に
       気に入られ、よき嫁となることでしょう。
       このような光景は、日本でも戦前まで普通に見られたものです。
       作者 王建(778?-830?)は中唐の詩人。穎川(えいせん、河南省)の人。大歴10年(775)
       の進士。官は秘書丞・待御史まで累進。又 数年間辺境の地に従軍した。
       詩は特に、後宮の女性の心情や生活をうたう宮詞に巧であった。        了
                                            (玉井幸久)