【通釈】 起句 野原の中を流れる川、晴れわたった山々、雪が降りやんだ後の冬景色の中、
承句 村里の道を、君と別れてただひとりあゆめば、思われるのは君のことばかり。
転句 谷川にかかる橋のたもとまでやって来て、居酒屋を見つけたが、立ち寄って
酔う気にもなれないで、
結句 あちらこちらに寒梅が開き、居酒屋の旗に照り映えているのを見ているのだ。
【語釈】 野水 野原を流れる。川
村路 村里のみち。
相思 相手のことを思う。「互に思う」ではない。
無因 故なし、原因、理由がない
塵纓 ちりのついた冠の紐。転じて俗世の官職。
向 おいて、むきあって、ちかづいて。
溪橋 谷川にかかる橋。
處處 いたるところ。あちらでもこちらでも。
寒梅 寒中の梅。冬の梅。
酒旗 酒居の看板に立てる旗
【押韻】 平声、支韻。時、思、旗。
【解説】 李群玉(813‐860?)は晩唐の詩人。
この詩は、作者が、冬の日友人と別れた後の心情をその友人に書き送ったものと思わ
れる。
承句の「獨行」「更相思」に続き転句で、「無因・・・醉」と畳みかけ、別後の孤独
感をしんみりと詠い上げた手法は美事で、友情の深さをしのばせる佳作といえます。
(玉井幸久)
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