早發白帝城 李白

   朝辭白帝彩雲閒

   千里江陵一日還

   兩岸猿聲啼不住

   輕舟已過萬重山

   (PCにない旧字は常用漢字を
   用いています)



   (つと)(はく)(てい)(じょう)(はっ) ()(はく)

  (あした)()(はく)(てい)彩雲(さいうん)(かん)

  千里(せんり)(こう)(りょう)一日(いちじつ)にして(かえ)

  両岸(りょうがん)猿声(えんせい)()いて()まざるに 

  軽舟(けいしゅう)(すで)()(ばん)(ちょう)(やま)



中国語による上の詩の朗読朗読

田原健一氏画


    【通釈】 起句 朝早く、朝焼け雲のたなびく白帝城に別れをつげて、
        承句 三峡を下り、千里も隔った江陵まで、僅か一日で到着した。
        転句 両岸の切りたった崖からは、猿のなき声がひっきりなしに聞こえ、その声が
          まだ耳にのこっている間に、

       結句 私が乗った小舟は、いくえにも重なる山々の間を通過したのだ。

    【語釈】
早  朝早く
            白帝城 四川省奉節県にある。長江(揚子江)航行の難所として名高い三峡の瞿塘峽
          (くとうきょう)に臨む崖の中腹に立っている。前漢末に公孫逑が自ら白帝と
           称して築いたとりで三国時代 蜀の劉備が拠り、ここで没した。
             彩雲 朝焼け雲。
             
千里 千里隔たった(江陵)の意。
          当時の一里は三百六十歩の道のり、約五百米。

             江陵 湖北省江陵県。春秋戦国時代 楚国の都 郢(えい)の地。又 荊州ともいう。
          長江に臨む。

             一日還 一日で到着する(した)の意。
            困難だが、長江の流れの速さを強調した表現。
       猿聲 三峡の両岸の切り立った崖には猿が多く、その啼き声は悲しかったという。
          多くの詩に詠まれている。
       啼不住 絶えまなしに啼く。
       萬重山 幾重にも重なる山々。

    【押韻】 平声 、刪韻、  閒、 還、 山。

    【解説】 李白(701-762)、二十五歳の作。後世詩仙と称せられるようになる李白は、五歳の時
       両親と共に蜀(四川省)に移り住み、その地で成長、二十五歳の時 志を天下に求め、
       はじめて蜀を後にして長江を下った。この詩はその時の作とするのが一般的である。
       朝焼けの下、白帝城に別れを告げればいよいよ異郷の地。感傷にひたる間もなく軽舟は
       千里先の江陵へと、万重の山の間を飛ぶように流れ下る。この美しい情景描写の中に未
       来に挑む若者の爽やかな心情が読みとれる。この詩は古来李白の代表作の一つに挙げら
       れ、また唐代七言絶句の随一とさえ評される傑作です。
                                       以上
                                         (玉井幸久)