中国語による上の詩の朗読朗読
鈴木栄次氏画


    【通釈】 起句 香ぐわしい地名の蘭陵で醸(かも)される美酒(うまざけ)は、鬱金香のかおりを
          放つ、その名も鬱金香。
        承句 美しい杯になみなみと注げば、琥珀色に光りかがやく。
        転句 この家のあるじが、この酒で旅人の私を十分に酔わせてくれさえすれば(酔わせ
          てくれるので)
       結句 いったいどこが他国なのであろうか。故郷にいるのと少しも変らない。

    【語釈】
客中  旅の途中、旅行中。
       蘭陵  地名。今の山東省。嶧県の東。酒の産地。
       鬱金香  香草の名。一説にサフランの漢名とも。又、この香草の香りを加えて醸した
            酒の名。

       玉椀  美しい杯。
       琥珀  植物の樹脂が地中に埋れて化石化したもの。透明又は半透明で黄や褐色の美し
           い色彩を帯びる。
       主人  あるじ。
       客   旅人。ここでは李白自身をいう。
       但   ただ・・・しさえすれば。
       他郷  よその土地。故郷以外の土地

    【押韻】 平声、陽韻。香、光、鄕。

    【解説】 李白(701‐762)は盛唐の人。杜甫と並んで中国を代表する代表する大詩人。
       酒を好み詩仙と称せられた。詩風は豪放。
       開元二十四年(736)三十六歳の時、李白は山東に行きその地に寓居し、孔巣父、裴政、
       張叔明、韓準・陶沔らと徂徠山で会合し、酒をほしいままに飲み、「竹渓の六逸」と
       号し、隠逸の生活を送った。この詩はその頃の作とされる。
       詩の構成は、先ず起句に蘭陵という香り高い地名(蘭は香草)と鬱金香(香草)を配し、
       承句には、玉と琥珀という美しい宝石を配して潑溂とした生気を醸し、転句の「醉」と
       結句の「不知」と相呼応して作者の豪放な酔い振りをうかがわせる、いかにも李白らし
       い作品。李白壮年時代の傑作の一首です。
                                      (玉井幸久)