楽遊原 李 商隱 向晩意不適 驅車登古原 夕陽無限好 只是近黄昏 (PCにない旧字は常用漢字を 用いています) 晩に向んとして意 適わず 車を駆って古原に登る 夕陽 無限に好し |
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田原健一氏画 |
【通釈】 起句 夕暮れがせまる頃、何故か心が楽しまず、 承句 車を走らせて楽遊原の丘にのぼって来た。 転句 この丘から眺める夕日の何と美しいことか、 結句 だが しかし、この美しい輝きにも次第に夕闇がせまっているのだ。 【語釈】 楽遊原 長安の東南にある丘。漢の宣帝が廟宇を立て、楽遊苑と名づけて以来 長安 人士の行楽の地となった。丘からは長安の街が一望出来、又北方には多くの 陵が見える。 向晩 日暮れに近づいてゆく。向はある状態に近づいてゆく意。 意不適 心が楽しくない。適はよろこぶ意。 古原 楽遊原のこと。古くからの行楽地。 只是 だが しかし。 黄昏 夕暮れ。夕方。 よく映る鏡。 【押韻】 平声 、元韻、 原、 昏。 【解説】 李 商隱 (812-856)、字は義山。河内(かだい)(河南省)の人。晩唐を代表する詩人。 26歳の時 進士及第したが官途は不遇であった。 詩は温庭筠と並び称せられる。特に七言律詩に優れ、典故を多用したきらびやかな風 格のある詩を作った。 この詩は、特に難解な語を用いず、又 技巧を凝らさず直截的な表現で、詩人の 心の 奥底にある言い知れぬ不安感を詠じた、五言絶句の傑作である。 この詩は又、今日平和の中にひたすら余生を楽しむ老人の心にもずしんと響くものを 持つ一品です。 以上 (玉井幸久) |