秋風引  劉 禹錫

   何處秋風至

   蕭蕭送雁群

   朝來入庭樹

   孤客最先聞

   (PCにない旧字は常用漢字を
   用いています)




    秋風(しゅうふう)(いん) (りゅう) ()(しゃく)

   (いず)()よりか(しゅう)(ふう)(いた)る、

   蕭蕭(しょうしょう)として雁群(がんぐん)(おく)る。

   (ちょう)来庭樹(らいていじゅ)()るを、

   ()(きゃく)(もっと)(さき)んじて()く。

 中国語による上の詩の朗読朗読
田原健一氏画


    【通釈】 起句 何処からか秋風が吹き、
        承句 さびしい音を立てながら雁の群を送ってくる。
        転句 今朝がた庭の木々の間に吹き入り、枝をざわつかせる音を、
       結句 都を離れて孤独な日々を強いられている私の耳は、誰よりも早く聞きつけるのだ。

    【語釈】 秋風行 秋風のうた。楽府題の詩題には歌の意で行、曲、吟、引などが用いられる。
            蕭蕭 ものさびしいさまや音の形容。
             朝來 朝がた。來は助字。
             孤客 ひとりぼっちの旅人。客は臨時に他郷に住んでいる人、又 他郷から来ている
           人をいう。

    【押韻】 平声 、十二文韻  群、 聞。

    【解説】 劉 禹錫(七七二―八四二)は中山(河北省)の人。貞元九年(七九三)二十一歳の若さ
       で柳宗元とともに進士及第。二人は生涯を通じ無二の親友となった。
       官途につき、将来を嘱望されたが、政変により挫折、度々辺地に左遷された。
       この詩は、おそらくはその不遇時代の辺地での作と思われる。雁には、蘇武が匈奴に使
       し、擒(とら)えられ幽閉された時 雁の足に手紙を結び付けて都にとどけたという故事が
       あり、承句には都を思う作者の気持が託されている。
       さびしい秋の気配を誰よりも早く聞きつけるというさらりとした表現により、胸裏に秘
       めた孤独感、寂寥感をかえって痛々しく表現することに成功している。
       劉 禹錫の傑作の一つです。
                                       以上
                                         (玉井幸久)