烏衣巷 劉禹錫 朱雀橋邊野草花 烏衣巷口夕陽斜 舊時王謝堂前燕 飛入尋常百姓家 (PCにない旧字は常用漢字を 用いています) 朱雀橋辺 野草の花 烏衣巷口 夕陽斜なり 旧時王謝 堂前の燕 |
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田原健一氏画 |
【通釈】 起句 朱雀橋のほとりには、野草が花を咲かせており、 承句 烏衣巷の入口のあたりには、夕日が、さみしく斜めにさしている。 転句 昔、このあたりに軒を連ねていた貴族の王氏や謝氏の豪奢な邸宅はあとかた も無く、その屋敷の堂前に巣をかけていた燕が、 結句 今は、ただありふれた庶民の家の軒に飛び込んでいる。 【語釈】 烏衣巷 地名。今の南京市が建康と呼ばれた東晋時代、その南を画する秦淮河 (しんわいが)の南にあった街。当時王氏、謝氏など貴族の邸宅があった。 その子弟が皆黒衣を着けていたのでこの名がついたという。 朱雀橋 秦淮河にかかっていた橋の名。北は朱雀門に連なり南は烏衣巷の入り口。 王謝 東晋時代の大貴族であった王氏と謝氏。 堂 建物の中央の広間をいう。 尋常 ありふれた。普通の。 百姓 庶民。 【押韻】 平声 、麻韻、 花、 斜、 家。 【解説】 劉禹錫(772-842)は中山(河北省)の人。792年柳宗元とともに進士及第。更に上級 試験にも合格し、順調に官途についたが、政変により幾度も地方に左遷された。後 呼びもどされて太子賓客、検校礼部尚書となった。 柳宗元とは無二の親友であり、また白居易とも親交を結んだ。 この詩は作者がその昔(東晋時代)繁華を誇った都 建康(別名 金陵、今の南京)の さびれた町はずれに立ち、人の世の栄枯盛衰を、飛び交う燕に託して詠じた懐古詩の 秀作です。 以上 (玉井幸久) |