中国語による上の詩の朗読朗読
鈴木栄次氏画


    【通釈】 起句 はすの葉は枯れて、もう雨にさしひろげた傘のすがたは無い
        承句 
菊の花はおとろえているが、それでも霜にめげぬ枝はある。
        転句 一年のうちのこのよいながめを、あなたはぜひとも心に留めておくがよい。
       結句 ちょうど、ゆずの実は黄色く色づき、みかんは緑のこの時を。

    【語釈】 
荷   はす。荷盡は、はすの葉がすっかり枯れてしまったこと。

       擎   高くさしあげる。

       蓋   傘。

       菊殘  菊が盛りをすぎて咲きおとろえたこと。

       須   ぜひとも……の必要がある、の意。

       正是  今ちょうど。
          「最是」となっているテキストもある。その場合は何よりも、の意となる。

       橙黃橘綠  橙(ゆず、又はだいだい)の実が黄色く色づき、橘(みかん)は青い、
             晩秋から初冬の候をいう。


    【押韻】
平声、支韻、枝、時
       起句、承句を対句とし、起句は踏み落とし。

    【解説】 蘇軾(1036-1101)は北宋最高の詩人であり大文豪。
       この詩は作者が杭州知事として在任中(1090年、55歳)に、当時杭州で民兵の部隊を統率し
       ていた劉景文という人に贈ったもの。
       詩の前半には、已に枯れ尽きたはすと、霜に耐えている菊を配し、後半に色鮮やかな橙と橘に
       焦点を当て凛とした初冬の好風景を詠じた佳作です。
       この詩はまた、劉景文の兄達が早逝し、景文一人が生存していることから、起・承句はその
       ことを云い、転・結句では景文も晩年に近づいたが、今こそはなばなしい功をたてるべき時
       だとの意を含み、景文を激励する詩と見る説があります。併せて鑑賞するのも一興です。
                                      (玉井幸久)