【通釈】 起句 びっしりと密に播かれた苗代の苗をとり、まばらに植えてゆけば、田は一面緑の絨毯の
ようである。
承句 田植えを終えたばかりの苗の列の間は、浅く清らかな水が満ち細かな水紋がゆれている。
転句 誰が知っているだろう、このか細くただ青々とした苗の中に、
結句 秋の豊作を喜ぶ鼓腹撃壊の声が潜んでいることを。
【語釈】 插秧 田植え。
種 たねをまく。この場合は苗代に播かれた状態をいう。
綠毯 緑の絨毯。
行間 植えられた稲の列の間。
穀紋 しわのような模様。穀はちりめん(縮緬)
豐年 作物が豊かに実った年。又豊かなみのり。
擊壞 鼓腹撃壊。農民が腹づつみを打ち、大地を踏みならして太平無事を楽しむさまをいう。
(古の堯帝の故事)
【押韻】 平声、庚韻。平、生、聲
【解説】 范成大(1126-1193)は南宋の有能な愛国政治家であり、また詩人としても楊万里、陸游と
並び南宋三大詩人の一人とされる。
晩年は郷里蘇州に隠居し、江南の農民の暮らしぶりを詠じた連作「四季田園雑興」六十首を
作った。
本欄では、平成25年11月「冬日田園雑興」を、また平成26年10月「秋日田園雑興」を
鑑賞した(トップページの左欄の「漢詩鑑賞」に掲載してます)。
今回の詩「插秧」も田園を題材とし、田植を終えたばかりの稲田のか細い苗の中に、秋の豊作
を喜ぶ農民の声を聞くという、田園詩人范成大ならではの、農民に対する暖かい愛情のこもっ
た清らかな作品です。
(玉井幸久)
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