【通釈】 起句 真珠の飾りのついた美しいすだれを高く巻き上げて、日が次第に長くなった庭を見る。
承句 中庭には雪かとみまがう梅の花が香りを放ちながら舞っている。
転句 のどかに闌干に寄りかかって、芽吹いたばかりの柳をつくづくと眺めやる。
結句 いったい誰の為にこんなに美しい黄色に身を染めているのだろう。
【語釈】 珠簾 真珠で飾ったすだれ。美しいすだれ。
漸 ようやく。次第に。
庭院 屋敷。中庭。
雪 この場合は梅花をいう。
閑 のどか。しずか。
倚 もたれる。よりかかる。
看 よく見る。熟視する。
新柳 あらたに芽を出した柳。
鵝黃 鵝(がちょう)の雛の羽毛が黄色で美しいことから黄色で美しいもののたとえ。(柳・酒など)
【押韻】 平声、陽韻、長、香、黃。
【解説】 趙雍(1290?-?)は元の人。元朝に仕え、書と画に巧であった。 この詩は、日一日と春めいて
くる早春の中庭の情景を、雪かと まがう純白の梅花の香りに、浅黄色にかすかに芽吹く柳の姿を
加えて美しく映出し、待ちに待った春の到来を喜ぶ作者の しみじみとした情感をさらりと詠出
した佳作と言えます。
(玉井幸久)
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