【通釈】 起句 昔から人は秋になると寂しさをかこつが、
承句 私は、秋の日は春の朝にまさっていると言いたい。
転句 晴れた空に、一羽の鶴が雲をおしわけてのぼってゆき、
結句 たちまち人の詩情をかきたてながら、碧(あお)くすみわたる空のかなたに
飛んでゆく、この秋の趣きのすばらしさよ。)
【語釈】 秋思 秋の思い。普通は秋の寂しいもの思いの意を含むが、この詩では、単に秋に
ついての思いの意。
寂寥 ものさびしい様。
便 すぐに。たちまち。
詩情 うたごころ。心に触れた思いを、詩に表したいと思う気持ち。
碧霄 あおぞら。碧空。霄は空。天。
【押韻】 平声、蕭韻。寥、朝、霄。
【解説】 劉禹錫(772‐842)は中唐の詩人。
貞元九年(793)の進士。柳宗元とは生涯の親友であり、 晩年には白居易と親しく
交った。
この人の詩は、平成27年9月、(秋風引)、平成28年5月(烏衣巷)を鑑賞し
ている。
此の詩は、秋を詠ずるに、先ず「秋はものさびしい」という詩人の通念を否定して、
春よりもましと述べて読む人をはっとさせ、後半秋の情景をのべるという手法で、
碧空にのぼる一羽の鶴に托し、絵を見るようなすがすがしい秋景を詠じて見せた秀
作です。
(玉井幸久)
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