【通釈】 起句 たまたまちょうどこの秋の夜、あなたのことを思いつつ、
承句 そぞろ歩きをしながら、涼しくひろがる天に向って詩を口ずさんでいる。
転句 人気のない静かな山中では、時おりカサッと松かさの落ちる音がきこえるばかり
結句 ひっそりと、山中に隠棲しているあなたもきっと(松かさの落ちる音を聞きながら)
まだ眠っていないことでしょう。
【語釈】 丘二十二員外
作者の友人丘丹のこと。二十二は排行で一族中の兄弟いとこを
年齢順に並べ上から22番目を示す。
員外は官名。丘丹は戸部員外郎となったが、早くに辞職し浙江省、臨平山に
隠棲した。
屬秋夜 ちょうど秋の夜である。
屬は、ちょうど・・・である。たまたま・・・である。
散歩 そぞろあるき、ぶらぶらあるき。
山空 空山は、人けのないさびしい山。
松子 松かさ。
幽人 世を捨てて隠れて棲んでいる人。隠者。ここでは友人丘丹を指す。
應 「まさに・・・べし」と読む。推量の意を表す。
【押韻】 平声、先韻。天、眠。
起句は拗体。二四同。四字目孤平。
【解説】 韋應物(737?‐?)は中唐の人。若いころは任侠を好み、玄宗皇帝の護衛兵と
なった。安禄山の乱で失職してからは勉学に努め官途についた。官の最終は蘇州
刺史(長官)で人望を集めた。引退後は蘇州に留り、韋蘇州と呼ばれた。
人物は天性高潔で詩作に優れていた。詩風は王維、孟浩然の流れをくみ、柳宗元と
併せて「王孟韋柳」と称せられる。特に山水の世界を詠じた清冽、閑寂の詩が多い。
この詩は、作者が蘇州刺史であった時、浙江の臨平山に隠棲していた友人の丘丹に
寄せたもので、韋應物詩を代表する名作で、古来幽絶を歌う絶品と評されている。
(玉井幸久)
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