贈別   杜牧

   多情卻似總無情

   惟覺罇前笑不成

   蝋燭有心還惜別

   替人垂涙到天明

   (PCにない旧字は常用漢字を
   用いています)




     (ぞう)(べつ)      ()(ぼく)

   多情(たじょう)(かえ)って()たり(すべ)無情(むじょう)なるに

   ()(おぼ)(そん)(ぜん)(わらい)()らざるを。

   蝋燭(ろうそく)(こころ)()りて()(わか)れを()しみ

   (ひと)(かわ)って(なみだ)()れて天明(てんめい)(いた)る。

 中国語による上の詩の朗読朗読
田原健一氏画


    【通釈】 起句 ものごとに感じ易い私の心は、あまりの悲しみの為にかえって何も感じない
          心と同じになってしまった。
        承句 ただ気づいているのは、別れの酒樽を前にして笑うことが出来ないことだ。
        転句 蝋燭も私の悲しみがわかり、共に別れを惜しんでくれ、
       結句 私に替って夜明けまで涙を流し続けているのだ。

    【語釈】 贈別 人が旅立つときに、はなむけとして贈る詩。
       多情 物事に感じやすいこと。
       無情 物事に感じる心が無いこと。
       罇  酒だる
       天明 夜明け。天明 夜明け。

    【押韻】 平声 、庚韻、  情、 成、 明。

    【解説】 この詩は心ならずも去って行く相愛の人に贈る惜別の詩である。
       作者 杜牧(803-852)は京兆万年(陜西省西安)の人。晩唐第一の詩人。特に七言絶
       句に巧み。大和二年(828)進士及第。官僚の道を歩んだ。三十一歳の時、当時 中国
       有数の繫革を誇った楊州に赴任。二年間在留した。
       この詩を贈った相手は、楊州で馴染んだ年若い妓女であったとされている。 はかな
       い恋の終りの、別れを悲しむ心情をあやしく詠いあげた。杜牧ならではの傑作です。
                                         了
                                         (玉井幸久)