【通釈】 起句 夕もやが秦淮河の寒々とした水面にたちこめ、月の光は 河岸の砂一面を照ら している。 承句 この夜、秦淮河に舟泊りしているのだが、近くの河岸には料亭が立ち並んでいる。 転句 料亭の妓女たちは、昔この地に都した陳の国の亡国の悲しみなどは知らないで、 結句 その亡国の原因となった「玉樹後庭花」の曲を今なお歌ってさんざめいている のが聞こえてくる。 【語釈】 秦淮 南京城の南を流れて長江に注ぐ運河の名。秦淮河。秦の時代に掘られたので この名がある。河岸には繁華街が連り、妓楼があった。 泊 舟どまりする。 煙 もや。 籠 たちこめる。包む。 寒水 寒々とした河の流れ。 沙 すな。みぎわの砂。 月籠沙 月の光がみぎわの砂一面を照らしている。 酒家 料亭。
【解説】 杜牧(803-852)は晩唐第一の詩人。詩風は軽妙洒脱。多くの美しい七言詩をのこし ている。この詩は、作者が南朝の古都金陵(南京)の繁華街に沿って流れる秦淮河に 舟泊りしての作。 岸辺の酒楼から聞こえて来る、妓女達の歌声を聞きながら、その地にくりひろげられた 二百数十年前の亡国の歴史に独り思いをはせる詩人の姿が目に見えるような、美しく、 哀愁のこもった佳作です。 (玉井幸久) |