【通釈】 起句 春の雪が空いっぱいに降って来て
承句 雪が付着して、いたる処花が咲いているようだ。
転句 いったい、庭の木々のうち、
結句 どれが本当の梅なのだろう。
【語釈】 春雪 春に降る雪。
空 ①むなしい。何もない。
②そら、天空、天空には何もないからいう。
園裏樹 庭園の木。裏は中。
若箇(ジャクコ) いずれ、どれ。
【押韻】 平声、灰韻。來、開、梅。
五言絶句は普通承句と結句に押韻するが、この詩のように起句も押韻することがある。
【解説】 東方虬(生年・卒年不詳)は初唐の人。則天武后に仕え詩を良くした。次のような逸話
逸話がある。
則天武后が洛陽の南の龍門に遊んだ時、扈従の群臣に詩を作れと命じたところ、東方虬
が最初に作ったので褒美として錦の袍(上着)を賜った。ところが次いで宋之間の詩が出
来ると、その出来ばえのすばらしさを賞し武后は、東方虬から袍をとりあげて宋之間に
賜ったと。
二人が当時を代表する詩人であったことが伺える。
此の詩は、春の思いがけない降雪を、何もない空に満ちて降って来ると表現し、湿りを
含み触れるものに付着し易い春雪を表現するに、どれが本当の梅の花かと問いかけると
いう手法で、簡潔かつ美しく春雪に装う庭の風情を詠じた佳作といえます。
(玉井幸久)
|