有約  趙 師秀

   黄梅時節家家雨

   靑草池塘處處蛙

   有約不來過夜半

   閑敲碁子落燈花

   (PCにない旧字は常用漢字を
   用いています)


    

     有約   趙 師秀

  黄梅(こうばい)()(せつ) 家家(かか)(あめ)

   青草(せいそう)()(とう) 処処(しょしょ)(かえる)

   (やく)()れども ()たらず ()(はん)() 

   (かん)碁子(きし)(たた)けば (とう)()()とす

   

     


    

    
中国語による上の詩の朗読朗読

牛山香流氏画


    【通釈】 起句 梅雨の時節とて、村の家々は鬱陶しい雨の中にひっそりと静まり、
        承句 青い草の繁ったため池の堤では、あちらこちらで蛙が鳴き交わしている。
        転句 約束の友人は夜半が過ぎてもまだ来ない。
       結句 しかたなく暇つぶしに一人で碁石を打ち下ろしていると、傍らの灯心の燃え
          かすが音もなく落ちているのだ。


    【語釈】 
約 約束、この場合は来訪の約束。
       黄梅時節 梅の実の黄色く熟する時節。
            この頃降る雨を黄梅雨(こうばいあめ)と呼ぶ。即ち、梅雨。
       家家 家毎に。
       池塘 池の堤。
       處處 至るところ。あちらでもこちらでも。
       碁子 碁石。
       敲 たたく、うつ。敲碁子は碁石を打ち下ろすこと。敲棊。
       燈火 灯心の先にできる燃えかすのかたまり。

    【押韻】 平声 、麻韻、  蛙、 花、   起句は踏み落とし。

    【解説】 作者は南宋、永嘉(浙江省温州)の人。
       宋の太祖、趙匡胤(ちょうきょういん)の八世の孫。紹煕元年(1190)の進士。
       その詩は清新円美と評されている。南宋の都した浙江地方は気候風土が我が国と類似し
       ている。この詩の前半に見事な対句構成で描写する風景は、我が国の梅雨期のそれと変
       わりない。
       その中で深夜まで約束の友人(おそらくは碁友)の来訪を待って一人棋譜を並べている
       様子が目に見えるようで、読む人の心を和ませてくれる美しい作品です。

                                       以上
                                         (玉井幸久)