【通釈】 起句 赤々と炭の燃えさかる火鉢に、ありったけの炭をくべ、衣服を着込み、 承句 一杯の酒を含めば、体中がぼうっとなる程暖かい。 転句 世間の人は、霜の降りた後の寒さはどうしようもないと言うが、 結句 春がもう甕の中にあるのを彼等は知らないのだ。 【語釈】 苦寒 寒さに苦しむ。 添盡 ありったけのものを添える。 紅爐 あかあかと燃える火鉢。 着盡 いっぱいに着込む。 一杯 一杯の酒。 痴 狂う。正気でない情況。 無奈 いかんともする無し。どうしようもない。 甕 酒を入れるかめ。
【解説】 楊萬里(1127-1206)は南宋の詩人。 紹興二十四年(1154)の進士。官途につき、地方、中央の官職を歴任した。その性 格は剛直であったとされるが、多くの庶民的な詩を遺し、陸游・范成大と並び南宋 三大詩人に挙げられている。 この詩は、三連作の第二首。苦寒と題しながら、寒に 苦しむ表現を用いず、むしろ春を待つ冬の生活を楽しんでいるかのような作品となっ ている。 その発想の面白さに読む人の心もなごまされる佳作です。 (玉井幸久) |