エッセイ: 漢詩と私

漢詩で遊ぶ
                                城田六郎

 漢語を使った遊びの一つに「集句」というのがある。これは宋代に初めて行われたものである。古人の句をあちこちから拾い,つづり合わせて自己の詩とするものである。北宋の政治家文人の王安石が創始者であるとされ、南宋亡国の際の抵抗運動の指導者である文天祥はその愛好者であった。
 それでは具体的に作ってみよう。佩文斎詠物詩選七絶抄の「七言絶句ここから一歩」をテキストとして選ぶ。韻の種類が多い方が作りやすいので、一先の韻を選ぶ。49首掲載されている。
 まず「詩題」を「漁父」ときめる。この詩題に適した句を先人の句から選ぶ。起承転結はそれぞれ異なった詩から選び、同じ詩題の詩から選んではいけない。また先人の句はそのまま用いて一字たりとも変更してはならない。先人の起句を自分の結句に用いるのは自由である。
      作例 「漁魚」
    雨急歸來失繋船 (方岳・漁父詞の承句)
    一杯寒酒夜深眠 (張來・舟行絶句の結句)
    漁翁酔著無人喚 (韓偓・酔著の転句) 
    只有蘆花淺水邊 (司空曙・江邨卽事の結句)
 集句は起承転結をマスターするのに恰好の作詩法であり、皆さんも是非試みては如何ですか。
 文天祥は捕らえられ、獄中で杜甫の詩を集めて自らの詩とする集句の詩を二百首作っている。参考までにその一首をあげてみよう。
    結髪爲妻子 (新婚別)    髪を結びてより妻子となり
    倉皇避亂兵 (破船)      倉皇として乱兵を避
    生離與死別 (別賀闌銛)   生離と死別
    囘首淚縱橫 (示宗文宗武) 首を回せば涙縦横たり
      ( )の中はその句を含む杜甫の詩の題である。