「江雪(こうせつ)」 柳 宗元(りゅう そうげん)

  千山鳥飛絶

  萬徑人蹤滅

  孤舟蓑笠翁

  獨釣寒江雪


   千山鳥(せんざんとり)()ぶこと()

   万径人(ばんけいじん)蹤滅(しょうめつ)

   孤舟(こしゅう)蓑笠(さりゅう)(おきな)

   (ひと)()寒江(かんこう)(ゆき) 
國田公義氏画

  【通釈】 起句 見渡す限り周辺の山々には、鳥の飛ぶ影一つ見えず、
           承句 小道という小道には人の足跡もない。
           転句 一そうの小舟を浮かべて、みのかさを着けた老漁夫が、
           結句 ただ一人、凍るような大江の降りしきる雪の中で釣り糸を
                 たれている。

  【語釈】 江雪 川に降る雪、またその雪景色。
           千山 多くの山、見渡す限りすべての山々。
           萬徑 多くの小道、すべての小道。
           人蹤 人の足跡。
           孤舟 ただ一そうの小舟。それに乗る人の孤独を表現する。
           蓑笠翁 みのかさを着けた老人。
           寒江 凍るような寒々とした冬の川。

  【押韻】 入声屑韻、 絶、 滅、 雪。
           五言絶句では普通 承句と結句に押韻するが、この詩では起句も
           押韻している。

  【解説】 柳 宗元(773-819)は中唐の詩人。河東(今の山西省)に生まれ
           793年 二十一歳で進士及第。順調に官途に就き政治改革を志したが
           政変により失脚。805年永州(湖南省)に左遷、更に815年 柳州
     (今の広西壯族自治区)に遷され、その地で没した。
           枯淡の味わいに冨む自然詩に長じ、王維、孟浩然、韋応物と並び
           王孟韋柳と称せられている。この詩は作者が左遷されて永州に在
      った時の作で、みごとに詠じ切った雪中蓑笠の翁の姿に作者自身
      の置かれた厳しい環境と、孤高の心境を重ねたものと言われてい
      ます。
           起句、承句を対句とし「絶」、「滅」という入声の韻を用い、転
      句、結句の最初に「孤」、「獨」を配して孤独を強調するなど非
      凡の手法を駆使した唐詩傑作の一つといえます。

                           (玉井幸久)



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