写真提供:飯島敏雄氏 | 「飲湖上初晴後雨」 蘇軾 水光瀲灔晴方好 山色空濛雨亦奇 欲把西湖比西子 淡粧濃抹總相宜 水光瀲灔として、 晴れて方に好し 山色空濛として、 雨も亦た奇なり 西湖を把って西子に 比せんと欲すれば 淡粧濃抹総べて相宜し |
【通釈】起句 湖面を照らす日の光がきらきらとさざ波に映じ、晴れた日の湖の景 色は実にすばらしい 承句 周辺の山々の色がぼんやりとかすんで見える、雨の中の景色もまた すばらしい。 転句 この西湖の景色の美しさは、たとえるならば、かの絶世の美女西施が、 結句 さっと薄化粧をした時も、またこってりと厚化粧をこらした時も、ど ちらもすばらしかったのと同じだ。 【語釈】飲 のむ、 さかもり・うたげの意味をもつ。 水光 水面の光。 瀲灔 れんえん、 さざ波の連り動くさま。水面が光に映じてきらめく さま。 山色 山の色。山の景色。 空濛 くうもう、 小雨が降ってうすぐらいさま。ぼんやりかすんで はっきりしないさま。 奇 めずらしい。すぐれている。 西湖 せいこ、 浙江省杭州城外にある湖。風光明媚で有名。 西子 せいし、 西施。春秋時代 越国に生れた絶世の美女。越王勾践が 呉に敗れ和を請うた時、呉王夫差の愛妃となり、呉国滅亡のもと になる。 淡粧 薄化粧。 濃抹 厚化粧。こってり塗る意。 【押韻】平声 四支韻。 奇、宜。 起句は踏み落とし。七言絶句は、通常起句も押韻するが、此の詩のよう に、起句承句を対句構成とした場合、踏み落とすことがある。 【解説】天下の絶景西湖の風景を、杭州ゆかりの美女西施にたとえて美しく詠じ た絶品です。 蘇軾(1036-1101)は北宋最高の詩人であり大文豪。東坡と号した。 眉山県(今の四川省)に生れ、22歳で科挙進士及第。高級官僚の道を歩ん だが、後年 王安一派の政策を批判して度びたび左遷された。36歳の時 通判(副知事)として杭州に赴任、3年間この地で過ごした。その間西湖 の景色を愛し、多くの詩を遺した。この詩はその代表的な作品の一つで す。なお、松尾芭蕉の象潟の句に、この詩の影響が見てとれます。 (玉井幸久) |