「清明(せいめい)」 杜牧(とぼく)


  清明時節雨紛紛

  路上行人欲斷魂

  借問酒家何處有

  牧童遙指杏花村


   清明(せいめい)時節(じせつ) (あめ)紛紛(ふんぷん)

   ()(じょう)行人(こうじん) (こん)()たんとす。

   借問(しゃもん)酒家(しゅか)(いず)れの(ところ)
  か()る。


   牧童(ぼくどう) (はる)かに()杏花(きょうか)(むら)


    中国語による上の詩の朗詠朗詠
田原健一氏画

    【通釈】 起句 春の盛りの清明の好時節だというのに、雨が降りしきり、
             承句 旅の道を行く私の心はすっかり滅入るばかり。
             転句 「ちょっと尋ねたいのだが、酒を売っている店はどこにあるのかな」、
             結句 すると牛飼いの子供が、遥かかなたの杏(あんず)の花咲く村を指さ
                   してくれた。

    【語釈】 清明 二十四節季の一つ、春分から十五日目、陽歴の四月五日頃に当る。
                   この時節に降る雨を杏花雨と呼ぶ。
             紛紛 乱れるさま、乱れ飛ぶさま、多いさま。
             行人 道を行く人、旅人。
             斷魂 非常にいたましく、悲しいことのたとえ。魂も消え入るばかり。
             借問 問う、質問する。
             酒家 さかや、酒屋。
             牧童 牛飼いの子供。
             杏家村 あんずの花盛りの村。

    【押韻】 平声十三元韻、魂、村、 十二文韻 粉の通韻。

    【解説】 降りしきる雨の中を行く旅人。そこに出会った牧童とのやりとりを、遥かに
       けぶる杏(あんず)の花咲く村を背景に、さながら一幅の禅画を見るように
       詠出した佳作です。      
       特に転句と結句が絶妙です。
       中国には「杏家村」という銘柄の酒や、村があるそうですが、恐らくはこの
        詩にあやかったものでしょう。
       なお、この詩は杜牧の作ではないという説もありますが、詩の格調は杜牧の
       作品として鑑賞するに充分です。
                                   (玉井幸久)