【通釈】 起句 洛陽の町に秋風が吹きわたる季節になった。
承句 故郷の家族に手紙を書こうと思い立ったが、いざ書きはじめると、積もる
思いが次々とおしよせる。
転句 あわただしく書きあげたが、言いもらしたことが無いかと心配になり、
結句 手紙を託す人が出発するに当り、又封を開いて読み返してみる。
【語釈】 秋思 秋の思い。
洛陽 唐代 都 長安と共に洛陽に東都を置いた。
城裏 町の中。
家書 家族に送る手紙、又家族からの手紙。この場合は前者。
怱々 あわただしいさま。
行人 旅人、使者。
【押韻】 平声 一東韻 風。二冬韻 重、封。
このように似ている韻を共通して用いることを通韻という。
【解説】 張籍(768-830?)は中唐の詩人。江南蘇州(一説には鳥江)の生まれ、貞元
15年(799)進士及第。秋風と郷愁の組み合せは古今変わらぬ詩の題材です。
この詩は作者が故郷を出て都 洛陽に上り、科挙の為の勉強中か、或いは役所
勤めをした頃の作品と思われます。
詩中 郷愁そのものを直接言わず、「秋風を見て」「家書を作らんと欲し」
「又封を開く」という一連の動作によって、それを巧みに表現しています。
時がゆるやかに流れていた、古きよき時代の美しい情景です。
(玉井幸久)
|