講演会
「第5回」 |
公益社団法人日本詩吟学院認可・湘清吟詠会での第5回漢詩鑑賞の集い講演報告 『江戸のホモ ルーデンス(注1)・大田南畝』 |
報告 湘清吟詠会会長 三上岳光 |
平成27年10月25日午前、横須賀市はまゆう会館において約30名の幣会会員を対象に神奈川県漢詩連盟会長 岡崎満義先生を講師に迎えて90分余の講演をしていただいた。今回も昨年同様「古典の日」にちなむ企画。今回の演題は、「江戸のホモ
ルーデンス・大田南畝」。第1回「酒とユーモア」、第2回「漢詩-漢詩の中の女考」、第3回「志について 屈原、そして三島由紀夫」および第4回「文士、文壇そして文人」に続く第5弾だ。 爲貧爲鈍奈世何 食也不食吾口過 君不聞地獄沙汰金次第 千挊追付貧乏多 なお、15、6歳ごろには以下のような確りした漢詩を作っている。 子規啼 江南江北柳花飛 片片隋風点客衣 解釋子規啼血恨 春光千里不如歸 次の詩は江戸風景を詠っている。 江戸四季遊 夏 川長兩國橋 花火燃前後 歌響屋形船 皆翻妓子袖 寄願人坊 一染年閒作願人 今朝判物取錢頻 町中婦樣如相問 道樂如來是後身 次は地方の人が江戸に来たのを半分ひやかした詩。元禄までは文化の京都、経済の大坂だったのがこの時代
江戸が台頭してきた。 江戸膝元異在鄕 大名小路下町方 二王門共中堂峻 兩國橋踰御馬長 懸値現金正札附 小便無用板塀傍 吉原常與品川賑 儻是狂言三戲場 歳暮題酒家壁 富貴功名不可求 楚雲湘水望悠悠 今年三百六十日 半在胡姫一酒樓
借銭の山にすむ身のしづかさは二季より外にとふ人もなし こもりくのこたつに足をふみこみてふとんの山に身をのがれつつ 春前 證文不知數 處處掛鳥歩 野郞風氣時 行殘知多少 題角觝夫谷風圖 來自仙臺海國東 三都爭識萬夫雄 一聲虎嘯纔張目 角觝場中起谷風 松魚 湘中何物比琳琅 四月松魚味可嘗 日本橋東遊侠窟 撃鮮無處不飛觴 嫩綠薰風社宇啼 乘潮翠鬣上從西 添韲炙膾垂涎處 戲道都人爲典妻
讀城田六郞詞兄鰹魚有感 岡崎滿義(講師) 旨酒鮮魚暑可忘 典妻多啖庶民望 如今草食男兒異 肉食佳人欲典郞 今回の講演で、私たちは直面している高齢化社会へ向けての示唆をいただき、合わせて「80、90、100歳の論語」の宿題をいただいた。 有難うございました。 (注1)ホモ ルーデンス(homo
ludens):遊戯人の意。オランダの歴史学者ホイジンガの用語。遊戯が人間活動の本 (注2)トリックスター(trickster):ポール・ラディンがインディアン民話の研究から命名 (注3) パロディー(parody):もじり詩,替え歌,戯文,変曲。ある作家,流派または作品 |
写真提供:三上光敏氏 |
以下連載順に掲載
「第1回」 |
公益社団法人日本詩吟学院認可・湘清吟詠会での第1回漢詩鑑賞の集い |
平成24年4月8日(日)午前10時~正午、三浦市南下浦市民センター講義室にて第一回漢詩鑑賞の集いが開催された。演題は「酒とユーモア」。講師は神奈川県漢詩連盟会長 岡崎満義先生。参加は当会会員61名をはじめ総員で65名、講義室に机を並べると少しきつい。実は当会(注)で外部講師による漢詩鑑賞講座開催ははじめて。会員の平均年齢は70歳を少し超える。そして女性がやはり65%。しかも、向上心・関心は極めて高い。当日は丁度三浦半島でも河津桜に続いて2回目の桜満開。陽気もよく、こころが何かウキウキしてくる。参加者は入り口で手作り冊子のテキストと「漢詩神奈川」11号・入会案内を入手、参加費は300円。
講義は2時間。先ずは絶滅危惧種と講師がいわれる漢詩世界の現状の紹介。次いで日本の最初の漢詩集「懐風藻」(751年)の編纂の位置付けや、訓読法の発明、続いて日本での漢詩の歴史。さらに現在の中国での古典詩作りの実情へと続く。そして教育界での特区制度にもふれられ、世田谷区の日本語特区の紹介。英語教育の大切さもあることながら、日本人として日本語教育の必要性をあつく語る。4月8日付「朝日俳壇」金子兜太選一席の作品「帰去來(かえりなんいざ)みちのおく春霞」での漢詩との繋がりにもふれられた。そして『神奈川方式』と石川忠久先生がいう神奈川県漢詩連盟の漢詩作詩入門講座の紹介と、講師の漢詩への並々ならぬ身の入れ方が伝わってくる。さらに講師の京大での師吉川幸次郎、訳文詩集 井伏鱒二、青木正兒等々の逸話と続く。戦後、世の中の風景は2回変ったという展開に聴衆は完全に講師の手中。長島茂雄の「メイクドラマ」や「ミート・グッドバイ」など数々のエピソードに春眠を味わう人はいない。前半1時間に登場した人物数は40名余。講師は頻りに「脱線して」と恐縮されたが会員は大満足。講師の幅広い人脈の一端をうかがい知ることができた。 終りに、この度の講演が実現できましたこと、岡崎先生をはじめ関係の方々にあらためて感謝を申し上げます。 (講師自己紹介も兼ねて)
連絡先 〒239-0833 横須賀市ハイランド3-11-3 Tel.046-848-3153 三上岳光 |
講演内容 下のスタートボタンをクリックしてご聴講下さい |
講 演 会 風 景 写 真 | |
講座開始間もなくのスナップ | 講義中の岡崎満義会長 |
終了後の湘清吟詠会代表(平山笙岳)による謝辞 | 田原副会長による神奈川県漢詩連盟の紹介 |
写真提供:三上光敏氏 | |
「第2回」 |
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公益社団法人日本詩吟学院認可・湘清吟詠会での「第2回漢詩鑑賞の集い」 『漢詩の中の女』考 佐藤春夫『車塵集』を中心に 報告 湘清吟詠会会長 三上岳光 平成24年10月21日(日)午前10時~正午、三浦市南下浦市民センター講義室にて第2回漢詩鑑賞の集いが開催された。演題は「『漢詩の中の女』考 佐藤春夫『車塵集』を中心に」。講師は神奈川県漢詩連盟会長
岡崎満義先生。参加は当会会員と近隣の横須賀吟詠会会員の約70名。参加者は講義室入り口で手作り冊子のテキストと「漢詩神奈川」12号・入会案内を入手。参加費はひとり300円。講義室の大きさは机を並べると少しきつい位だ。今回の講演は4月
8日開催した第1回漢詩鑑賞の集い「酒とユーモア」に続き2回目。今回も女性会員が多く平均年齢は70歳を軽く超える。先ずは講師の漢詩に興味を抱いた動機、恩師の吉川幸次郎著「新唐詩選」がきっかけで、佐藤春夫著「車塵集」の自分流に訳したものや井伏鱒二の「厄除け詩集」での訳に惹かれたことから始められたという。今回は佐藤春夫「車塵集」48首のうちから16
首と佐藤春夫の評価が定まったと言われる「秋刀魚の歌」、杜牧の「遣懷」、「題禪院」および「泊秦淮」など9首そして講師自作詩の「寄挙重三宅宏美選手」、「贈撫子日本女子足珠隊」など3
首が対象。講義は正味90分を超す熱演。受講者の顔を見ながらの日本と中国との詩の内容の違い―日本の詩は恋愛ものが多いのに中国は友情のものが多いとか、日本人の訓読法発明の素晴らしさや、漢詩作りに必須の平仄の話、そして漢文の“書き出し文”は意味はとっているが元の音は捨て去ったことなど、興味深い。テキストに沿った講義は勿論、行間の活字にない話は更に面白い。脱線?大歓迎だ。極めつけは佐藤春夫と谷崎純一郎・三千代の関係など、この辺りにいたると何故か女性陣の耳の角度が変わる。学校では聴くことができない面白いお話だ。そして文壇裏話、受講者を飽きさせない。前回は前半1時間程で登場人物が40余名を数えたが今回は登場人物数は厳選されて半分くらい。とは言え、講師の幅広い人脈は「すごーい」の一言に尽きる。後半は杜牧の七言絶句9首、中にはちゃんと吟詠家?馴染みの「江南春」や「山行」が入っていて一偏に漢詩が身近になった気にさせられる。最後は講師の近作の七言絶句
3首。中でも「贈撫子日本女子足珠隊」はわれわれにあの時の興奮を思い出させた。 |
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講 演 会 風 景 | |
講 演 会 会 場 風 景 | 本を片手に熱弁をふるう岡崎会長 |
写真提供:三上光敏氏 |
「第3回」 |
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公益社団法人日本詩吟学院認可・湘清吟詠会での第3回漢詩鑑賞の集い」 『志について 屈原、そして三島由紀夫』 |
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報告 湘清吟詠会会長 三上岳光 | |
平成26年11月2日午後、ヴェルク横須賀において約40名の幣会および横須賀吟詠会の会員を対象に神奈川県漢詩連盟会長
岡崎満義先生を講師に迎えて分余の講演をしていただいた。今回も昨年同様「古典の日」にちなむ企画。今回の演題は、第1回「酒とユーモア」、第2回「漢詩-漢詩の中の女考」および第3回「志について 屈原、そして三島由紀夫」に続く、第4回「文士、文壇そして文人」だ。 先ずは我が国の漢詩世界の現状について、上野千鶴子氏の言葉「漢詩は歴史的な賞味期限を失ったジャンル」と紹介。とはいえ、全国漢詩連盟の会員数は約1,700名、残念ながら若い人は目をむけないのが現状という。 なお、毎年実施されて今年で8回目になった神奈川県漢詩連盟主催 初心者入門講座は好評で30~40名の方々が受講されている。大半が定年退職者と専業主婦で、若い方はいない。 ついで、今年印象に残った本として、富士川義之著「ある文人学者の肖像 評伝・富士川英郎」を紹介された。富士川英郎(1909-2003)は著者 富士川義之の嶽父、リルケをはじめとするドイツ文学の研究者、しかし60歳代から江戸後期漢詩に目を向けて研究し、同好の士の道案内人役を担っている。このように異なるジャンルの方の漢詩への取り組みが漢詩の世界を面白くしているという。さらに、最近の朝日新聞の「従軍慰安婦問題」にもふれて、新聞の立場とご自身の㈱文藝春秋の見解を示して、会場から睡魔を退散させた。 演者がジャーナリストとしてスタートしたときにお手本にした本、2冊 宮本常一著「忘れられた日本人」と力富阡蔵氏のインタビューを基にした「相撲求道録」を紹介。そしてインタービュアーとしての喜び・達成感や自著「人と出会う」からのエピソードにも触れた。 そして『文藝春秋』誌の特集「田中金脈の研究」に関わるエピソードはペンの力の強さを示して興味深かった。また、歴史的な田中角栄首相の中国訪問とそのとき披露された自作漢詩、出来栄えに興味をそそられた。当時、もし 前神奈川県漢詩連盟会長 中山 清 氏が首相と同行していたら少しく歴史が変わったかも知れないと考えると本当に興味深い。 また、時代の流れのなかで、戦後の転換点として昭和39年の東京オリンピックや新幹線開業などの日本のハードウエア面と昭和49年あたりのソフトウエア面での転換、例えば女性の社会進出を指摘。こうしたなか、昭和10年からの芥川賞受賞者男女比の変遷で、女性が多くなってきたこと それまであった文壇が無くなってきたと指摘。続けて三島由紀夫、松本清張、大江健三郎や黒岩重吾氏等のエピソードは面白かった。そして、小説家たちの文士は別にして、豊富な知識、批評精神と遊び心を持った文人はほとんど居なくなったという。そうしたなか、和、漢、洋の学識をもつ石川 淳が著した「江馬細香詩集」を紹介。漢詩を通して頼山陽と江間細香について評している。江間細香は詩吟の教本にも収載されているので受講者の関心を一段と高めた(筆者は良寛と貞心尼を思いだした)。アッという間の90分余だった。 これまで4回のご講演を通じて、漢詩連盟の存在・活動と合せて 漢詩の世界に遊ぶ楽しさを教えていただいた。有難うございました。 |
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講 演 会 風 景 | |
熱弁をふるう岡崎会長 | |
写真提供:三上光敏氏 |
「第4回」 |
公益社団法人日本詩吟学院認可・湘清吟詠会での第4回漢詩鑑賞の集い」 『文士、文壇そして文人』 |
報告 湘清吟詠会会長 三上岳光 |
平成26年11月2日午後、ヴェルク横須賀において約40名の弊会および横須賀吟詠会の会員を対象に神奈川県漢詩連盟会長 岡崎満義先生を講師に迎えて分余の講演をしていただいた。今回も昨年同様「古典の日」にちなむ企画。今回の演題は、第1回「酒とユーモア」、第2回「漢詩-漢詩の中の女考」および第3回「志について 屈原、そして三島由紀夫」に続く、第4回「文士、文壇そして文人」だ。 |
写真提供:三上光敏氏 |