講演会

「第5回」 
 公益社団法人日本詩吟学院認可・湘清吟詠会での第5回漢詩鑑賞の集い講演報告
江戸のホモ ルーデンス(1)・大田南畝

 報告 湘清吟詠会会長  三上岳光 

平成271025日午前、横須賀市はまゆう会館において約30名の幣会会員を対象に神奈川県漢詩連盟会長 岡崎満義先生を講師に迎えて90分余の講演をしていただいた。今回も昨年同様「古典の日」にちなむ企画。今回の演題は、「江戸のホモ ルーデンス・大田南畝」。第1回「酒とユーモア」、第2回「漢詩-漢詩の中の女考」3回「志について 屈原、そして三島由紀夫」および第4回「文士、文壇そして文人」に続く第5弾だ。
 先ずは神奈川県漢詩連盟の現状についての紹介、連盟は漢詩を学び漢詩に遊ぶことをモットーにしたゆるやかな集まりという。現在、日本人の平均年齢は世界一で平成26年 男性80.5歳、女性86.8歳という長寿社会、人類の願いは不老不死だからもうお手本が我々にはない。
自分たちでこれからの生き方を切り開いていかなければならない。まさにスーパー高齢化、少子化そして単身者社会に突入している。いろいろな課題があるなか ひとつの試みが「遊ぶこと」。これがこれからの社会の大きな目標になる。連盟では漢詩の輪を広げるために「バトル漢詩」というイベントを催したりしているが若い人の参加は少ない。そのため若い人向けに「スマホで漢詩」などに取り組んでいる。
 最近、又吉直樹さんの「火花」(文藝春秋)が人気だが、又吉さんは俳句もやり「新四字熟語」(幻冬舎よしもと文庫)を上梓している。そこでは「馬面猫舌」や「合法非道」などと言葉で遊んでいる。また、「論語」為政第二に「子曰く、吾十有五にして学に志し、三十にして立つ、・・・七十にして心の欲する所 に従えども、矩を踰えず」とあるが、八十以上はない。ご自分なりの論語を作って欲しい。(因みに岡崎先生は「八十にして男女の性別を越えて遊び、九十にして他を忘れて遊び、百にして己を忘れて遊ぶ」と紹介された)本日の対象者 大田南畝はその先駆者。また、平成5年、「週刊文春」(文藝春秋)で美智子皇后へのバッシングをしたことがあった。その関係で、司馬遼太郎さんに社内講演会をやっていただいたときに氏が語った言葉のなかに「『文藝春秋』という雑誌は大きな風呂敷のようなもの。トランクだとそれに合うものしか入らない。そんな雑誌の骨組みを作ったのは池島信平さんだろう」と言われた。示唆に富んだ言葉だった。その池上さんはよく編集会議に現われて雑誌の編集にはひとり、馬鹿(トリックスター
(2))が必要といった。組織の活性化のためにプロやアマがいたり、破壊と生産といった二面性が必要ということ。大田南畝は当時のトリックスターのひとり。
また、遊びについては、中国の例で酒池肉林がある。古代中国における伝説の悪王・殷の紂王が、国政が傾くほどの贅沢をした様を「まるで池を酒で満たし林に肉を吊しているかのごとし」と例えられたことから生まれたことわざである。一方、漢の武帝は秋風辞で
自然の情景を詠みながら、老いていく人生の歎きを詠い「歓楽極まりて哀情多し」と述べているが、大田南畝は社会を揺るがそうとしているのではなく風刺を遊びのひとつとしている。
 大田南畝が活躍した時代は江戸時代の明和・安永・天明期で、江戸時代の二回目の文化的高まりがあった。(一回目は元禄期の経済的・文化的の高まりで、二回目は概ね百年後となる)江戸時代は264年間、戦争が無かった平和な時代で、この時代は老中 田沼意次による重商主義による改革の時代で、一面「賄賂社会」と言われるが農業社会から経済社会へかえて行こうとした時代であった。
 大田南畝は寛延2年(1749)生まれ、幕府 御徒務めの吉左衛門正智・利世の長男 本名 覃(たん、ふかし)で、通称 直次郎、七左衛門。号は蜀山人(しょくさんじん)、寝惚先生(ねぼけせんせい)、四方赤良(よものあから、巴人亭 (はじんてい)など多数。(因みに菅茶山は1748年生、頼山陽は1780年生)。14歳のとき内山賀邸に国学・和歌を、松崎観海に漢詩文を学んで狂歌・狂詩をつくる人脈を得る。明和3年(1766)処女作の作詩用語集『明詩擢材』を編み、翌年には平賀源内の序を付した戯作第一弾の狂詩集『寝惚先生文集』を出版している。
         貧鈍行

  爲貧爲鈍奈世何 食也不食吾口過 君不聞地獄沙汰金次第 千挊追付貧乏多

これは杜甫「貧交行」(春秋時代の斉の管仲・鮑叔の交情を詩にした)をパロディー3)にしている。思いつきや頓知だけでなく、教養の深さがうかがえる。

なお、156歳ごろには以下のような確りした漢詩を作っている。

         子規啼

江南江北柳花飛 片片隋風点客衣 解釋子規啼血恨 春光千里不如歸

次の詩は江戸風景を詠っている。

         江戸四季遊 夏

  川長兩國橋 花火燃前後 歌響屋形船 皆翻妓子袖


また、王昌齢「芙蓉樓送辛漸」と李白「答湖州迦葉司馬問白是何人」の2首を下敷きにした詩も作っている。

         寄願人坊

  一染年閒作願人 今朝判物取錢頻 町中婦樣如相問 道樂如來是後身
 

次は地方の人が江戸に来たのを半分ひやかした詩。元禄までは文化の京都、経済の大坂だったのがこの時代 江戸が台頭してきた。

         江戸見物

  江戸膝元異在鄕 大名小路下町方 二王門共中堂峻 兩國橋踰御馬長

  懸値現金正札附 小便無用板塀傍 吉原常與品川賑 儻是狂言三戲場

また、吉原での遊びも漢詩にしている。

         歳暮題酒家壁

  富貴功名不可求 楚雲湘水望悠悠 今年三百六十日 半在胡姫一酒樓

この時代、いろんな人が江戸に入ってきた。これも田沼意次政策の功績だった。大田南畝は田沼政権下の勘定組頭 土山宗次郎から経済的な援助を得るようになり、吉原にも通い出すようになった。
 天明6年(1786)ころには、吉原の松葉屋の・三保崎を身請けし妾とし自宅の離れに住まわせるなどしていた。
天明3年( 1783)には、朱楽菅江とともに『万載狂歌集』を編む。『千載和歌集』のパロディー。大田南畝34歳。

  借銭の山にすむ身のしづかさは二季より外にとふ人もなし

  こもりくのこたつに足をふみこみてふとんの山に身をのがれつつ


さらに孟浩然「春暁」をパロディーにした次の作品もある。

         春前

  證文不知數 處處掛鳥歩 野郞風氣時 行殘知多少

大田南畝は田沼時代の江戸の生活を楽しんだ。最晩年、文政3年(1820)の出版『杏園詩集続篇』から2首。

         題角觝夫谷風圖

  來自仙臺海國東 三都爭識萬夫雄 一聲虎嘯纔張目 角觝場中起谷風

         松魚

  湘中何物比琳琅 四月松魚味可嘗 日本橋東遊侠窟 撃鮮無處不飛觴

 (参考      初鰹魚                城田六郞(現 神奈川県漢詩連盟顧問)

嫩綠薰風社宇啼 乘潮翠鬣上從西 添韲炙膾垂涎處 戲道都人爲典妻

            讀城田六郞詞兄鰹魚有感     岡崎滿義(講師)

         旨酒鮮魚暑可忘 典妻多啖庶民望 如今草食男兒異 肉食佳人欲典郞


その後、天明7年(1787年)大田南畝は狂歌・狂詩の世界から離れた。それは田沼意次が失脚し、パトロンの土山宗次郎も罪をえて死罪となったためにその累を避けたものと思われる。そして、大田南畝は、松平定信の寛政の改革に幕史本来の姿勢を俊敏に取り戻した。寛政6年(1794)幕府の「学問吟味」(人材登用試験)を首席の成績で通り、家録を70俵から100俵に加増されている。その生活力の強さを感じる。
大田南畝は文政6年(1823)、75歳で亡くなった。晩年については肥前国平戸藩 第9代藩主 松浦 清(静山)が隠居後に執筆した江戸時代後期を代表する随筆集『甲子夜話』に大田南畝のことが書かれている。何らかの交流があったのではないかと思われる。



 講師は、あらためて大田南畝は羨ましい江戸のホモ ルーデンスだったとし、併せて、その時代のホモ ルーデンスになるためには教養と生活のための最低限のお金が要ると、纏められた。


今回の講演で、私たちは直面している高齢化社会へ向けての示唆をいただき、合わせて「80、90、100歳の論語」の宿題をいただいた。

有難うございました。
                                    (了)

(注1)ホモ ルーデンス(homo ludens):遊戯人の意。オランダの歴史学者ホイジンガの用語。遊戯が人間活動の本
 質であり、文化を生み出す根源だとする人間観。

(注2)トリックスター(trickster):ポール・ラディンがインディアン民話の研究から命名した人物類型。神話や物
    語の中で、神や自然界の秩序を破り、物語を引っかき回すいたずら好きとして描かれる人物のこと。善と悪、
    破壊と生産、賢者と愚者など、全く異なる二面性を合わせ持つのが特徴。シェークスピアの喜劇『夏の夜の夢
    』に登場する妖精パックなどが有名。

(3) パロディー(parody):もじり詩,替え歌,戯文,変曲。ある作家,流派または作品の特徴をとらえて,作風
   や文体などを模倣・誇張して作った作品。風刺や嘲弄のため,あるいは滑稽 や諧謔の機知をねらって作られ
   るが,鋭い批評の機能を果すこともある。

 
                   写真提供:三上光敏氏



以下連載順に掲載

「第1回」                        

  公益社団法人日本詩吟学院認可・湘清吟詠会での第1回漢詩鑑賞の集い
「酒とユーモア」

                                                        
                                                      報告 湘清吟詠会会長 三上岳光

  平成24年4月8日(日)午前10時~正午、三浦市南下浦市民センター講義室にて第一回漢詩鑑賞の集いが開催された。演題は「酒とユーモア」。講師は神奈川県漢詩連盟会長 岡崎満義先生。参加は当会会員61名をはじめ総員で65名、講義室に机を並べると少しきつい。実は当会(注)で外部講師による漢詩鑑賞講座開催ははじめて。会員の平均年齢は70歳を少し超える。そして女性がやはり65%。しかも、向上心・関心は極めて高い。当日は丁度三浦半島でも河津桜に続いて2回目の桜満開。陽気もよく、こころが何かウキウキしてくる。参加者は入り口で手作り冊子のテキストと「漢詩神奈川」11号・入会案内を入手、参加費は300円。

講義は2時間。先ずは絶滅危惧種と講師がいわれる漢詩世界の現状の紹介。次いで日本の最初の漢詩集「懐風藻」(751年)の編纂の位置付けや、訓読法の発明、続いて日本での漢詩の歴史。さらに現在の中国での古典詩作りの実情へと続く。そして教育界での特区制度にもふれられ、世田谷区の日本語特区の紹介。英語教育の大切さもあることながら、日本人として日本語教育の必要性をあつく語る。4月8日付「朝日俳壇」金子兜太選一席の作品「帰去來(かえりなんいざ)みちのおく春霞」での漢詩との繋がりにもふれられた。そして『神奈川方式』と石川忠久先生がいう神奈川県漢詩連盟の漢詩作詩入門講座の紹介と、講師の漢詩への並々ならぬ身の入れ方が伝わってくる。さらに講師の京大での師吉川幸次郎、訳文詩集 井伏鱒二、青木正兒等々の逸話と続く。戦後、世の中の風景は2回変ったという展開に聴衆は完全に講師の手中。長島茂雄の「メイクドラマ」や「ミート・グッドバイ」など数々のエピソードに春眠を味わう人はいない。前半1時間に登場した人物数は40名余。講師は頻りに「脱線して」と恐縮されたが会員は大満足。講師の幅広い人脈の一端をうかがい知ることができた。
  後半は5分の休憩後、再開。今度はプロジェクタ―を使って詩文をスクリーンに映してのご説明。于鄴「勸酒」、高適「田家春望」そして賀知章「題袁氏別業」と進む。何れも井伏等の訳文詩集つきで分り易い。杜甫「飮中八仙歌」での詩の誇張表現は「沈み込んでいる人に浮力を与える効果がある」という。そして杜甫と李白の友情の詩、「日本の文学は恋愛、中国のそれは友情」と説明される。さらに李白の「贈内」、「載老酒店」、「月下獨酌」、「贈汪倫」と続く。「贈汪倫」では石川忠久先生の近作にもふれられた。最後は詩吟界でもなじみ深い李白「山中與幽人對酌」。取りあげた詩は全部で11首、時間の興味の尽きない講演でした。

終りに、この度の講演が実現できましたこと、岡崎先生をはじめ関係の方々にあらためて感謝を申し上げます。

(講師自己紹介も兼ねて)
          白内障手術後有感    白内障手術ノアトデ思ウコト

           今朝驚見鏡中眞    寝ボケマナコデ鏡ヲミレバ
           皺面鬢霜愁殺人    シワシミシラガノクッキリト
           細字分明能判讀     ソレデモ文字ハヨク読メル
           只慙心眼未精神     タダ心眼ダケハママナラズ


     (注)湘清吟詠会:公益社団法人日本詩吟学院認可の吟詠会 

連絡先 〒239-0833 横須賀市ハイランド3-11-3 Tel.046-848-3153  三上岳光

 
                    
講演内容

            
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講 演 会 風 景 写 真 
講座開始間もなくのスナップ  講義中の岡崎満義会長 




終了後の湘清吟詠会代表(平山笙岳)による謝辞 田原副会長による神奈川県漢詩連盟の紹介


                   
   写真提供:三上光敏氏         
 

「第2回」
 
公益社団法人日本詩吟学院認可・湘清吟詠会での「第2回漢詩鑑賞の集い」
『漢詩の中の女』考 佐藤春夫『車塵集』を中心に
 

                     報告 湘清吟詠会会長  三上岳光 

平成24年10月21日(日)午前10時~正午、三浦市南下浦市民センター講義室にて第2回漢詩鑑賞の集いが開催された。演題は「『漢詩の中の女』考 佐藤春夫『車塵集』を中心に」。講師は神奈川県漢詩連盟会長 岡崎満義先生。参加は当会会員と近隣の横須賀吟詠会会員の約70名。参加者は講義室入り口で手作り冊子のテキストと「漢詩神奈川」12号・入会案内を入手。参加費はひとり300円。講義室の大きさは机を並べると少しきつい位だ。今回の講演は4月 8日開催した第1回漢詩鑑賞の集い「酒とユーモア」に続き2回目。今回も女性会員が多く平均年齢は70歳を軽く超える。先ずは講師の漢詩に興味を抱いた動機、恩師の吉川幸次郎著「新唐詩選」がきっかけで、佐藤春夫著「車塵集」の自分流に訳したものや井伏鱒二の「厄除け詩集」での訳に惹かれたことから始められたという。今回は佐藤春夫「車塵集」48首のうちから16 首と佐藤春夫の評価が定まったと言われる「秋刀魚の歌」、杜牧の「遣懷」、「題禪院」および「泊秦淮」など9首そして講師自作詩の「寄挙重三宅宏美選手」、「贈撫子日本女子足珠隊」など3 首が対象。講義は正味90分を超す熱演。受講者の顔を見ながらの日本と中国との詩の内容の違い―日本の詩は恋愛ものが多いのに中国は友情のものが多いとか、日本人の訓読法発明の素晴らしさや、漢詩作りに必須の平仄の話、そして漢文の“書き出し文”は意味はとっているが元の音は捨て去ったことなど、興味深い。テキストに沿った講義は勿論、行間の活字にない話は更に面白い。脱線?大歓迎だ。極めつけは佐藤春夫と谷崎純一郎・三千代の関係など、この辺りにいたると何故か女性陣の耳の角度が変わる。学校では聴くことができない面白いお話だ。そして文壇裏話、受講者を飽きさせない。前回は前半1時間程で登場人物が40余名を数えたが今回は登場人物数は厳選されて半分くらい。とは言え、講師の幅広い人脈は「すごーい」の一言に尽きる。後半は杜牧の七言絶句9首、中にはちゃんと吟詠家?馴染みの「江南春」や「山行」が入っていて一偏に漢詩が身近になった気にさせられる。最後は講師の近作の七言絶句 3首。中でも「贈撫子日本女子足珠隊」はわれわれにあの時の興奮を思い出させた。
  今回の講義、グッと漢詩を身近に感じさせた、アッと言う間の100分でした。これからも出来れば、例えば“古典の日”(11月3日、本年 9月公布・施行)に因み、この集いを実現してもっと大勢の吟友に聞いていただきたいと考えている。
  終りに、この度の講演が実現できましたこと、岡崎先生をはじめ関係の方々にあらためて感謝申し上げます。

講 演 会 風 景
講 演 会 会 場 風 景  本を片手に熱弁をふるう岡崎会長 
写真提供:三上光敏氏          

 
「第3回」
 

公益社団法人日本詩吟学院認可・湘清吟詠会での第3回漢詩鑑賞の集い」
志について 屈原、そして三島由紀夫

報告 湘清吟詠会会長  三上岳光 
  平成26年11月2日午後、ヴェルク横須賀において約40名の幣会および横須賀吟詠会の会員を対象に神奈川県漢詩連盟会長 岡崎満義先生を講師に迎えて分余の講演をしていただいた。今回も昨年同様「古典の日」にちなむ企画。今回の演題は、第1回「酒とユーモア」、第2回「漢詩-漢詩の中の女考」および第3回「志について 屈原、そして三島由紀夫」に続く、第4回「文士、文壇そして文人」だ。
 先ずは我が国の漢詩世界の現状について、上野千鶴子氏の言葉「漢詩は歴史的な賞味期限を失ったジャンル」と紹介。とはいえ、全国漢詩連盟の会員数は約1,700名、残念ながら若い人は目をむけないのが現状という。
 なお、毎年実施されて今年で8回目になった神奈川県漢詩連盟主催 初心者入門講座は好評で30~40名の方々が受講されている。大半が定年退職者と専業主婦で、若い方はいない。
 ついで、今年印象に残った本として、富士川義之著「ある文人学者の肖像 評伝・富士川英郎」を紹介された。富士川英郎(1909-2003)は著者 富士川義之の嶽父、リルケをはじめとするドイツ文学の研究者、しかし60歳代から江戸後期漢詩に目を向けて研究し、同好の士の道案内人役を担っている。このように異なるジャンルの方の漢詩への取り組みが漢詩の世界を面白くしているという。さらに、最近の朝日新聞の「従軍慰安婦問題」にもふれて、新聞の立場とご自身の㈱文藝春秋の見解を示して、会場から睡魔を退散させた。
 演者がジャーナリストとしてスタートしたときにお手本にした本、2冊 宮本常一著「忘れられた日本人」と力富阡蔵氏のインタビューを基にした「相撲求道録」を紹介。そしてインタービュアーとしての喜び・達成感や自著「人と出会う」からのエピソードにも触れた。
 そして『文藝春秋』誌の特集「田中金脈の研究」に関わるエピソードはペンの力の強さを示して興味深かった。また、歴史的な田中角栄首相の中国訪問とそのとき披露された自作漢詩、出来栄えに興味をそそられた。当時、もし 前神奈川県漢詩連盟会長 中山 清 氏が首相と同行していたら少しく歴史が変わったかも知れないと考えると本当に興味深い。
 また、時代の流れのなかで、戦後の転換点として昭和39年の東京オリンピックや新幹線開業などの日本のハードウエア面と昭和49年あたりのソフトウエア面での転換、例えば女性の社会進出を指摘。こうしたなか、昭和10年からの芥川賞受賞者男女比の変遷で、女性が多くなってきたこと それまであった文壇が無くなってきたと指摘。続けて三島由紀夫、松本清張、大江健三郎や黒岩重吾氏等のエピソードは面白かった。そして、小説家たちの文士は別にして、豊富な知識、批評精神と遊び心を持った文人はほとんど居なくなったという。そうしたなか、和、漢、洋の学識をもつ石川 淳が著した「江馬細香詩集」を紹介。漢詩を通して頼山陽と江間細香について評している。江間細香は詩吟の教本にも収載されているので受講者の関心を一段と高めた(筆者は良寛と貞心尼を思いだした)。アッという間の90分余だった。
 これまで4回のご講演を通じて、漢詩連盟の存在・活動と合せて 漢詩の世界に遊ぶ楽しさを教えていただいた。有難うございました。
 
講 演 会 風 景
熱弁をふるう岡崎会長 
           写真提供:三上光敏氏

「第4回」 
 公益社団法人日本詩吟学院認可・湘清吟詠会での第4回漢詩鑑賞の集い」
文士、文壇そして文人

 報告 湘清吟詠会会長  三上岳光 

平成26年11月2日午後、ヴェルク横須賀において約40名の弊会および横須賀吟詠会の会員を対象に神奈川県漢詩連盟会長 岡崎満義先生を講師に迎えて分余の講演をしていただいた。今回も昨年同様「古典の日」にちなむ企画。今回の演題は、第1回「酒とユーモア」、第2回「漢詩-漢詩の中の女考」および第3回「志について 屈原、そして三島由紀夫」に続く、第4回「文士、文壇そして文人」だ。
 先ずは我が国の漢詩世界の現状について、上野千鶴子氏の言葉「漢詩は歴史的な賞味期限を失ったジャンル」と紹介。とはいえ、全国漢詩連盟の会員数は約1,700名、残念ながら若い人は目をむけないのが現状という。
 なお、毎年実施されて今年で8回目になった神奈川県漢詩連盟主催 初心者入門講座は好評で30~40名の方々が受講されている。大半が定年退職者と専業主婦で、若い方はいない。
 ついで、今年印象に残った本として、富士川義之著「ある文人学者の肖像 評伝・富士川英郎」を紹介された。富士川英郎(1909-2003)は著者 富士川義之の嶽父、リルケをはじめとするドイツ文学の研究者、しかし60歳代から江戸後期漢詩に目を向けて研究し、同好の士の道案内人役を担っている。このように異なるジャンルの方の漢詩への取り組みが漢詩の世界を面白くしているという。さらに、最近の朝日新聞の「従軍慰安婦問題」にもふれて、新聞の立場とご自身の㈱文藝春秋の見解を示して、会場から睡魔を退散させた。
 演者がジャーナリストとしてスタートしたときにお手本にした本、2冊 宮本常一著「忘れられた日本人」と力富阡蔵氏のインタビューを基にした「相撲求道録」を紹介。そしてインタービュアーとしての喜び・達成感や自著「人と出会う」からのエピソードにも触れた。
 そして『文藝春秋』誌の特集「田中金脈の研究」に関わるエピソードはペンの力の強さを示して興味深かった。また、歴史的な田中角栄首相の中国訪問とそのとき披露された自作漢詩、出来栄えに興味をそそられた。当時、もし 前神奈川県漢詩連盟会長 中山 清 氏が首相と同行していたら少しく歴史が変わったかも知れないと考えると本当に興味深い。
 また、時代の流れのなかで、戦後の転換点として昭和39年の東京オリンピックや新幹線開業などの日本のハードウエア面と昭和49年あたりのソフトウエア面での転換、例えば女性の社会進出を指摘。こうしたなか、昭和10年からの芥川賞受賞者男女比の変遷で、女性が多くなってきたこと それまであった文壇が無くなってきたと指摘。続けて三島由紀夫、松本清張、大江健三郎や黒岩重吾氏等のエピソードは面白かった。そして、小説家たちの文士は別にして、豊富な知識、批評精神と遊び心を持った文人はほとんど居なくなったという。そうしたなか、和、漢、洋の学識をもつ石川 淳が著した「江馬細香詩集」を紹介。漢詩を通して頼山陽と江間細香について評している。江間細香は詩吟の教本にも収載されているので受講者の関心を一段と高めた(筆者は良寛と貞心尼を思いだした)。アッという間の90分余だった。
これまで4回のご講演を通じて、漢詩連盟の存在・活動と合せて 漢詩の世界に遊ぶ楽しさを教えていただいた。有難うございました。
次回のご講演がいまから楽しみです。

 
                   写真提供:三上光敏氏