【通釈】起句 山頂から半分雪をかぶった富士のお山が、蒼いかすみの中に聳え立っている。
承句 海も空も拭ったように清らかで、青々とした大海原も静かである。
転句 この秀でた姿は大古から永遠に変ることはない。
結句 真にこの山は、天下第一の山なのだ。
【語釈】 岳 高大な山、ここでは富士山。
蒼靄 蒼いもや、かすみ。
閒 しずか、やすらか。
間は閒の俗字とされ、同じ意味に用いることが多いが、この詩では別字と
して起句の間は「あいだ」の意に用いている。
秀容 すぐれた姿。
千古 遠い昔、永久、永遠。
乾坤 天と地、天下。
【押韻】 平声、刪韻。間、閒、山。
【解説】 鈴木虎雄(一八七八-一九六三)は新潟の人。号は豹軒。
漢文学者、明治三十三年、東京大学漢学科卒業。京都大学教授。著作多数。
この詩は戦後、昭和二十七年十月の作。時に作者七十五歳。
日本人の懐く富士山への思いを葉山海岸からの眺めに託して美しく詠い上げた秀作
です。
敗戦混乱のただ中にあって、作者がこの詩によって訴えたかったものは果たして何で
あったのでしょうか。
(玉井幸久)
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