会員の作品

初心者入門講座第10回修了生漢詩サークル(十期会)の作品

     
      令和二年四月過浅草寺   令和二年四月 浅草寺に過る   安田 博 
極目蕭條衆所崇   極目 蕭条 衆の崇(あが)める所
都無人影轉冥濛   都べて人影無く 転た冥濛
千年恭默五重塔   千年 恭黙 五重塔
鬼哭方聞春暮中   鬼哭 方に聞く 春暮の中
 

(作意)
 令和二年四月、政府は新型コロナウイルスの蔓延により非常事態宣言を発動した。
 その日は、いつもは観光客や参拝者でにぎわう浅草寺周辺も人影もなく寂しくさらに 空は薄暗くなっていた。 まさにこの時、遠い昔から慎み深く黙って人々を見守って いた五重塔から、霊魂たちの悲しげな泣き声が春の日暮れの中で聞こえた気がした。
                                        十期会 安田博


(寸評) 
  安田 博さんは、神漢連第10回初心者入門講座の受講生(十期会)で、会員としての経歴は浅いけれど、持ち前の詩的感性は優れており、同期の仲間からは一目置かれる存在である。先般、発行したコロナ禍の漢詩集でも佳作を受賞されており、近い将来には、全国漢詩大会で入賞も間違いないと確信している。
 今般のコロナ騒動では全国津々浦々に不安と恐怖を惹き起こしているが、この詩では平常は何事もなく賑わう浅草寺に人影もなく、「鬼哭」が聞こえてきたという表現でコロナの不気味さを上手く詠い上げている。
                                             高津有二



初心者入門講座第9回修了生漢詩サークル(九詩期会)の作品

     
 緑陰読書       緑陰読書       古川 彌 
閑人清昼坐茅廬     閑人清昼茅廬に坐す
一陣南薫涼有餘     一陣の南薫 涼(あまり)有り
倚机繙書心気爽     机に倚りて書を繙けば心気(しんき)爽やかに
窓前庭樹緑扶疎     窓前の庭樹 緑扶疎なり
  (語釈)

   茅廬…自分の家を謙遜していう

   南薫…南からの薫りよい風


    扶疎…まばらのさま

(作意)
  「初夏の明光差し込む部屋で、机に向かい心地よく読書をしていた。
  すると、涼風が一陣部屋に吹き入り、窓外の、庭木の枝が拡がり茂った
  新緑を見て、一層の爽快感を覚えた。」
                                         古川 彌

(一言)
 詩題の「緑陰読書」が詩中に上手に読み込まれています。緑陰を結句で表し、
 読書を転句で表現して詩題にマッチした良詩になっています。
 詩にはいつ、どこで、なにを読書しているかが明白で解りやすい詩です。
                                          川上修己
 


初心者入門講座第8回修了生漢詩サークル(八起会)の作品

     
 愛猫       愛猫       妹脊真理子 
明窓寒夜月如盆     明窓 寒夜 月 盆の如し
冷氣沈沈衾未温     冷気 沈々 (きん)未だ温まらず
忽覺狸奴牀蓐裏     (たちま)ち覚ゆ 狸奴(りど) 牀蓐(しょうじょく)(うち)
不圖自適似春暄     不図(はからず)も自適 春暄(しゅんけん)に似たり
  (語釈)

   沈沈…夜が更けゆくさま、静かなさま

   衾…寝巻き  狸奴…ねこ


    牀蓐…ねどこ  自適…ゆったりとして心のままに楽しむ


(寸評)

 作者は神漢連の最年少の女性です。教職の仕事に携わっているため、
 八期の例会には毎回は出席できていません。しかし詩稿係をひとりで
 受け持って、会の運営を支えてくれています。
 詩は詠物詩で猫と人とのほのぼのとした関係を詠っています。
 詩題の着眼がよいので、読む人をほっとした気にさせてくれます。
 寒い冬の夜に、愛猫のおかげで寝床の中が春の暖かさのようになった
 のです。
 日常の身近な生活の一面をこまやかな感性で、さりげなく表現できて
 います。
 詠物は宋詩に多く出てきますが、おそらく作者はこのジャンルによく
 目を通していて、自分もこのような詩を作りたくなったのでしょう。
                           中島 龍一