漢詩作品展示室

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令和6年度旧閑谷学校釈菜献詩 神漢連会員入賞者

最優秀賞  小嶋明紀子
 閑谷庠舎    閑谷庠舎
高甍巨桷總嚴然 閑谷庠舎高甍巨桷總て嚴然たり
講誦詩書經幾年 詩書を講誦して幾年をか經たる
一境何由多福德 一境何に由りてか福德多き
藩侯英邁庶民賢 藩侯は英邁にして庶民は賢なり
 
優秀賞  梨雪 高橋純子 
 閑谷黌釋菜   閑谷黌釈菜
亭亭楷樹石階邊 亭々たる楷樹石階の辺
廟宇朱甍映碧天 廟宇の朱甍碧天に映ず
嚴肅典儀淸韻裏 厳粛たる典儀清韻の裏
啓龕跪拝敬文宣 龕を啓いて跪拝し文宣を敬う

第16回諸橋轍次博士記念漢詩大会 神漢連会員受賞者

最優秀賞 諸橋轍次賞  高橋 純子
牡丹

優秀賞  木村 孝
東郊覓詩

優秀賞  宇野 次郎
新秋夜坐

佳作  木村 孝
首夏平明

佳作  牛山知彦
古寺池蓮

 

 

令和6年度全日本漢詩大会神奈川大会 神漢連会員受賞

神奈川県知事賞  白石 信隆
 柳津送別      柳津送別
同胞歸老向天涯 同胞帰老して 天涯に向う
楊柳津頭共酒卮 楊柳の津頭 酒卮を共にす
鶴髮固知難再會 鶴髪 固より知る 再びは会い難きを
登舟解纜故遲遲 舟に登りて纜を解くこと 故に遅々たり

神奈川県教育委員会教育長賞  小島 数子
 氷川丸        川丸
鷗鳥舞風金港天 鷗鳥 風に舞う 金港の天
碧波蕩漾岸堤邊 碧波 蕩漾する 岸堤の辺
百般航海渾如夢 百般の航海 渾て夢の如し
端麗孤高繋纜船 端麗 孤高たる 纜を繋ぐの船

横浜中華街発展会協同組合賞  高橋 純子
 灣上月明     湾上の月明
風拂輕煙秋水閑 風は軽煙を払いて 秋水閑なり
玉輪涵影小溪灣 玉輪 影を涵す 小渓の湾
三更依約桂香裏 三更 依約たる桂香の裏
一棹扁舟貫月還 一棹の扁舟 月を貫いて還る

神奈川新聞社賞  松本 祐輔
 横濱港雜詠     横浜港雑詠
漁家數點碧波頭 漁家数点 碧波の頭
晒網汀沙繋釣舟 網を汀沙に晒して釣舟を繋ぐ
今看繁華桑海變 今看る繁華 桑海の変
摩天大廈幾層樓 天を摩す大廈 幾層の楼

秀作  岡嶋 宣昭
 小港閑題      小港閑題
雨餘漫歩蓼花磯 雨余 漫ろに歩く 蓼花の磯
何寺鐘聲渡夕霏 何れの寺の鐘声か 夕霏を渡る
小港無人唯寂寞 小港 人無く 唯だ寂寞たり
纔看一葉釣舟歸 纔かに看る 一葉の釣舟帰るを

入選  青山 正子
 寄金港楠樹     金港の楠樹に寄す
煙波細雨泛輕鷗 煙波 細雨 軽鴎 泛ぶ
汽笛洋洋古渡頭 汽笛 洋々たり 古渡の頭
楠樹亭亭一靑蓋 楠樹 亭々 一青蓋
送迎獨管不曾休 送迎 独り管して曽て休まず

入選  石川 昌良
 銚子港卽事     銚子港即事
銚津寂寞浪花平 銚津 寂寞として浪花 平かなり
停泊漁船語笑聲 停泊す漁船 語笑の声
海上群鷗遠飛去 海上の群鴎 遠く飛び去り
斜陽縹渺暮潮生 斜陽 縹渺として 暮潮 生ず

入選  田内 隆
 橫灣晩景      橫湾の晩景
紅白薔薇立夕􄇽 紅白の薔薇 夕曛に立ち
淸香滿院絕塵氛 清香院に満ちて塵氛を絶す
埠頭霄漢有精彩 埠頭の霄漢 精彩有り
花色染天生紫雲 花色 天を染めて 紫雲を生ず

入選  福田 忠夫
 金港送人     金港に人を送る
天空索道景悠悠 天空の索道 景 悠悠たり
大舶乘風發渡頭 大舶 風に乗じて渡頭を発つ
折柳行人千里去 柳を折りて 行人 千里 去る
海螺一響遣春愁 海螺 一響 春愁を遣る

令和6年度 漢詩入門講座卒業詩受賞作品

最優秀賞  奈良千鶴子
 花時出遊     花時出遊
花香郁郁世專春  花香 郁々として 世は専ら春なり
再味靑陽喜壽人  再び青陽を味わう 喜寿の人
歷亂櫻桃閒忘步  歴乱たる桜桃に 間し歩を忘れ
淸明時節欲還巡  清明の時節 還た巡るを欲す

優秀賞    佐藤一夫
 花時出遊     花時出遊
江山十里雨晴時  江山十里 雨晴るる時
一路長堤千萬枝  一路 長堤 千万の枝
明媚櫻花楊柳綠  明媚 桜花 楊柳緑なり
流鶯美景好題詩  流鴬 美景 好し詩を題せん    

優秀賞    佐野輝美
 送春      春を送る
綠陰寂寂老鶯鳴  緑陰 寂々 老鴬鳴き
新樹幽庭芳草萌  新樹 幽庭 芳草萌ゆ
酒醒殘紅留不得  酒醒めて 残紅 留め得ず
南風一夢惜春情  南風 一夢 春情を惜しむ  

優秀賞    谷嶋美知子
 醉江樓      江楼に酔う
朧月花陰春色浮  朧月花陰 春色浮び
酣歌吹笛醉江樓  酣歌吹笛 江楼に酔う
故山十里微風度  故山十里 微風度り
歡喜高吟不說愁  歓喜高吟 愁を説かず

特別賞    椎名正道
 花時出遊     花時出遊
淡淡長江碧似油  淡々たる長江 碧油に似たり
前山淸景放吟眸  前山の清景に 吟眸を放つ
春風捲起梨花雪  春風 捲き起す 梨花の雪
羅綺東皇去不留  羅綺の東皇 去って留まらず

令和5年度『扶桑風韻』漢詩大会会員受賞

優秀賞   五嶋美代子 
 秋宿山家     秋 山家に宿る
秋蟬向晚送寒聲 秋蝉 晩に向いて 寒声を送る
翠嶂參差四面橫  翠嶂 参差 四面に横たわる
乍雨乍晴林變相 乍ち雨ふり 乍ち晴れ 林 相を変ず
獨身止宿看雲行  独身 止宿して 雲の行くを看る 

 

秀作    大谷明史 
 雲上雲下     雲上雲下
涔涔積雨溢禾田  涔涔たる 積雨 禾田に溢れ
道路水流成一川  道路 水 流れて 一川を成す
雲下誰思雲表景  雲下 誰か思わん 雲表の景を
火輪赫赫在靑天  火輪 赫赫として 青天に在り

 

佳作    小嶋明紀子 
 秋雲       秋雲
獨倚吟筇對碧天  独り吟筇に倚りて 碧天に対す
湖光不動轉悠然  湖光 不動 転た悠然
商風忽地從山嶺  商風 忽地 山嶺従りす
吹散纖雲幾百千  吹きて纖雲を散ずること 幾百千  

 

入選    内山早奈江
 海上流雲     海上の流雲
曲浦潮聲去不休  曲浦 潮声 去りて休まず
靑松謖謖足消憂  青松 謖謖 憂いを消すに足る
白雲曳曳到何處  白雲 曳曳 何れの処にか到らん
應是越瀛爲玉樓  応に是れ 瀛を越えて 玉楼と為らん  

入選    高橋純子  
 池上卽事     池上卽事
秋池淸淺浸靑天  秋池 清浅にして 青天を浸す
水鳥飛來生細漣  水鳥 飛び来たりて 細漣を生ず
雲影忽披還聚處  雲影 忽ち披き 還た聚る処
松陰微響一殘蟬  松陰 微に響く 一残蝉

入選    松本祐輔   
 中秋無月     中秋無月
良宵欲賞上高樓  良宵 賞せんと欲して 高楼に上る
豈料陰雲漠漠留  豈に料らんや 陰雲 漠漠として留むるを
空仰中天頻嘆息  空しく中天を仰ぎて 頻に嘆息す
如今何處月華浮  如今 何れの処にか 月華 浮かぶ

 


令和五年度研修会受賞作品

優秀賞   岡嶋宜昭
 廃田秋景    廃田秋景
日暮廃田啼亂鴉 日暮の廃田 乱鴉啼き
敗渠無水使人嗟 敗渠 水無く 人をして嗟か使む
西風満地草蕭瑟 西風 地に満ち 草蕭瑟たり
只見叢叢石蒜花 只だ見る 叢々たる石蒜の花

優良賞   木村孝
 七十初書法   七十にして初めての書法
老夫七秩莫逡巡 老夫 七秩 逡巡すること莫れ
心靜臨書滌硯塵 心静かに 書に臨み 硯塵を滌う
染翰敢然拈不律 翰を染め 敢然と 不律を拈る
爭知墨撥點衣巾 争でか知らん 墨撥ねて衣巾に点ずるを

優良賞   大野若人
 江村偶作    江村偶作
江村秋盡稍寒生 江村 秋尽き 稍寒生ず
盪漾蒼波一望淸 盪漾 蒼波 一望清し
日暮孤舟回棹去 日暮れ 孤舟 棹を回らせ去る
兩三漁戸四無聲 両三の 漁戸 四に声無し

特別賞   内山早奈江
  海上流雲    海上の流雲
曲浦潮聲去不休 曲浦の潮声去りて休まず
青松謖謖足消憂 青松謖謖憂を消すに足る
白雲曵曵到何處 白雲曵曵何処に到らん
應是越瀛為玉樓 応に是れ瀛を越え玉楼と為らん

第26回全国ふるさと漢詩コンテスト 会員受賞作

入選   中山洋子
 宿曲江畔   曲江の畔に宿る
急雨欲來風滿林 急雨 来たらんと欲し 風 林に満つ
橫波忽走岸頭侵 横波 忽ち走り 岸頭侵す
荒村盡日無人影 荒村 尽日 人影無し
曳杖老翁孤立吟 杖を曳く老翁 孤り立ちて吟ず

入選   小嶋明紀子
 夜投山館    夜に山館に投ず
身著征衣經幾年  身に 征衣を著けて 幾年をか経たる
逍遙百里到雲邊  逍遥 百里 雲辺に到る
破窓纔作四更夢  破窓 纔かに作す 四更の夢
三五淸光照獨眠  三五の 清光 独眠を照らす

第15回諸橋轍次博士記念漢詩大会漢詩大会 会員受賞作品

最優秀賞 新潟県知事賞  五嶋美代子
  秋日登樓    秋日 楼に登る
暮雲搖拽碧湖頭  暮雲 揺拽す 碧湖の頭
荻岸蒼蒼一片秋  荻岸 蒼蒼 一片の秋
坐想謝公千古詠  坐して想ふ 謝公 千古の詠
聊乘逸興試登樓  聊か逸興に乗じて試みに楼に登る
秀作  大谷明史
  三伏閒居     三伏間居
炎威赫赫絕行車  炎威 赫赫として行車を絶つ
午睡夢醒孤啜茶  午睡 夢 醒めて孤り茶を啜る
屋裏淸香徐散處  屋裏 清香 徐ろに散ずる処
坐看窗外紫薇花  坐して看る窓外 紫薇の花
佳作  小林迪雄 
  秋宵坐月     秋宵 月に坐す
三更滿地爽風周  三更 満地 爽風 周し
庭院蛩聲一片秋  庭院の蛩声 一片の秋
獨坐書齋燈影淡  独り書斎に坐せば 灯影 淡し
簷前白玉共良儔  簷前の白玉良儔を共にす
佳作  柴本信子 
  聞蛙聲      蛙声を聞く
萬蛙繁吹雨餘天  万蛙の繁吹 雨余の天
想起少時鄉苑邊  想ひ起こす 少時郷苑の辺
今却聽爲惆悵詠  今は却って聴きて惆悵の詠と為す
同遊友已赴黃泉  同遊の友は已に黄泉に赴く
佳作  大野若人
 新霽田園     新霽の田園
耕人阡陌把鋤犁  耕人阡陌に鋤犁を把る
花草含芳晴色齊  花草 芳を含みて 晴色 斉し
高響插秧歌濟濟  高く響く挿秧の歌済済たり
穰偏願蹈春泥  豊穣偏へに願ひて春泥を踏む
佳作  木村孝
  送朋友歸國    朋友の国に帰るを送る
柳塘小雨濕行衣  柳塘の小雨 行衣を湿し
午下新晴促顧懷  午下の新晴 顧懐を促す
今夕相交離別盞  今夕 相ひ交はす 離別の盞
明晨獨發大瀛涯  明晨 独り発す 大瀛の涯

生誕記念の部
優秀賞 小嶋明紀子
 恭賀諸橋博士生誕百四十周年  諸橋博士の生誕百四十周年を恭賀す
夙歲賢良修六經  夙歳賢良六経を修む
扶桑興教思冥冥  扶桑 教を興して 思ひ 冥冥たり
闡明倉頡萬千字  闡明す 倉頡の万千の字
人識鴻功照汗靑  人は識る 鴻功の汗青を照らすを
佳作  杉森千枝美
  訪諸橋轍次記念館  諸橋轍次記念館を訪ふ
先生生地好秋光  先生の生地 好秋光
遠近詩家會一堂  遠近の詩家 一堂に会す
曲水泛杯如故事  曲水 杯を泛かぶること故事の如し
臨流摘句是仙鄉  流れに臨みて句を摘む 是れ仙郷

いしかわ百万石国民文化祭2023全国漢詩祭典 会員受賞作品

石川県教育委員会教育長賞  三村公二   
 廬山懷古     廬山懐古
突兀群峯春色回 突兀たる群峯 春色回り
香爐瀑布絕塵埃 香爐の瀑布 塵埃を絶つ
昔時仙客逃名住 昔時 仙客 名を逃れて住み
今日行人拾翠來 今日 行人 翠を拾いて来たる

全日本漢詩連盟会長賞  高橋純子
 曉渡      暁渡
霜風瑟瑟荻蘆洲 霜風 瑟々たる 荻蘆の洲
野渡無人曉色幽 野渡 人無く 暁色幽なり
獨立鸕鷀不飛去 独り立つ鸕鷀 飛び去らず
煙霞橫處護虛舟 煙霞 横わる処 虚舟を護る

U18奨励賞最優秀賞  久保嶺夏(会員親族)
 詠赫夜姫    詠赫夜姫を詠ず
深秋推戶桂花香  深秋 戸を推せば 桂花香し
蟾影玲瓏滿屋梁  蟾影玲瓏 屋梁に満つ
世上難分非我土  世上分かれ難くも 我が土に非ず
想看舊里正茫茫  旧里を想い看て 正に茫々たり

秀作  廣田雅人
 泉涌寺       泉涌寺
月輪山麓帝陵甍 月輪山麓 帝陵の甍
望拜遙懷曠代榮 望拝 遥かに懐ふ曠代の栄
廟畔清泉涌無盡 廟畔の清泉 涌きて尽くる無く
至今千載響淙琤 至今 千載 響淙琤たり

入選  岡嶋宣昭 
 春夜花堤    春夜の花堤
一痕朧月半空懸 一痕 朧月 半空に懸り
滿目香雲正皎然 満目の香雲 正に皎然たり
遊客傾樽櫻樹下 遊客樽を傾く 桜樹の下
何人酣醉抱花眠 何人 酣醉して花を抱きて眠る

入選  小嶋明紀子 
 洛陽牡丹      洛陽の牡丹
魏紫馨香染短牋 魏紫の馨香 短牋を染め
姚黄麗色上長筵 姚黄の麗色 長筵に上る
誰人最愛此佳景 誰人が最も愛す 此の佳景
定是風流白樂天 定めて是れ 風流の白楽天

入選  五嶋美代子 
 立春曉雨     立春暁雨
庭角猶餘殘雪堆 庭角猶余す 残雪の堆
一看曆日識春來 一たび暦日を看れば 春の来たるを識る
冷然曉雨打香骨 冷然たる暁雨 香骨を打てども
却使瓊葩到處開 却って瓊葩をして到る処に開か使む

入選  杉森千枝美
  春日     春日
無賴東風連日吹 無頼なる東風 連日吹き
黃沙漠漠巻茅茨 黄沙漠漠として 茅茨を巻く
春光又度書窗下 春光又渡る 書窗の下
味讀高岑出塞詩 味はいて読む 高岑の出塞の詩 

入選  三浦哲郎 
  茅廬歸燕    茅廬歸燕
薫風習習麥秋天 薫風習々 麦秋の天
閑坐繙書案几前 閑坐も書を繙く 案几の前
乍聽呢喃梁上語 乍ち聴く呢喃 梁上の語
歸來雙燕不忘緣 帰来の双燕 縁を忘れず

2023 第八回漱石記念漢詩大会 会員受賞作品

最優秀賞  木村孝
 獨遊熱海梅園  独り熱海梅園に遊ぶ
溪水潺潺一曲琴 渓水潺潺 一曲の琴
花晨淸冷歩梅林 花晨清冷 梅林を歩す
溫湯暖氣亦如舊 温湯の暖気 亦旧の如し
折杪贈君紅玉簪 杪を折りて君に贈らむ紅玉の簪

佳作  五嶋美代子
 草原駿馬    草原の駿馬
霜蹄千里震川原 霜蹄千里 川原を震わす
奮鬣追風群馬奔 鬣を奮い風を追って群馬奔る
秀骨稜稜肌似玉 秀骨稜稜肌玉に似たり
天資應是及兒孫 天資応に是れ兒孫に及ぶべし

佳作  久川憲四郎
 阿倍仲麻呂   阿倍仲麻呂
征帆一片別東天 征帆一片 東天に別れ
埋骨遼󠄁遼落󠄁日邊 骨を埋む遼遼落日の辺
淸夜孤懷故山月 清夜孤り懐う故山の月
遊魂長恨不歸船 遊魂長に恨む 不帰の船

佳作  小嶋明紀子
 紫陽花     紫陽花
旬日憑欄細雨中 旬日 欄に憑る 細雨の中
方知造化不言功 方に知る 造化 不言の功
繍毬七變嫩葩色 繍毬 七たび変ず 嫩葩の色
幽賞深靑與淺紅 幽賞す 深青と浅紅とを

入選  大谷明史
 老耄無為    老耄為す無し
林下茅廬靜四圍 林下の茅廬 四囲靜かなり
案頭一朶白薔薇 案頭一朶 薔薇白し
只思異國砲聲響 只だ思う異国に砲声響き
城市樓邊炸彈飛 城市楼辺 炸彈飛ぶを

入選  柴本信子
疫病蔓延下病床有感 疫病蔓延下 病床感有り
衰年病眼隠憂深 衰年 眼を病みて 隠憂深し
高閣幽房夜氣侵 高閣の幽房  夜気侵す
夢裡潜彈想夫戀 夢裡潜かに弾ず 想夫恋
無人聽取切歸心 人の聴取する無く 帰心切なり

高壽奨励賞  永野澄(96歳)
 讀漱石     漱石を読む
高名萬里響如雷 高名万里  響き雷の如し
詩趣盈盈文藻才 詩趣盈盈たり  文藻の才
三四郎譚獨耽讀 三四郎譚  独り 耽読すれば
青春懷古氣雄哉 青春懐古して気雄なる哉



令和五年度漢詩入門講座 卒業詩優秀作品

最優秀賞 小林豊朗
 梅天閑詠    梅天閑詠
梅天黙坐小齊中 梅天黙坐す小斎の中
煙雨模糊暗半空 煙雨模糊として半空暗し
雙燕歸來人不到 双燕帰り来たるも人は到らず
寂然酌酒一簾風 寂然と酒を酌めば一簾の風

優良賞 伊藤邦彦
 山寺散策    山寺散策
山中佛閣寂無聲 山中の仏閣寂として声無く
煙雨濛濛萬物生 煙雨濛々万物生ず
數刻恍然詩未就 数刻恍然詩未だ就らず
忘歸塵外賞心傾 帰るを忘れ塵外賞心傾く

優良賞 吉池純
 偶成      偶成    
淡淡穿墻十日霖 淡々と墻を穿つ十日の霖
蕭然點滴碧苔侵 蕭然たる点滴碧苔を侵す
蝸牛不動窓前竹 蝸牛動かず窓前の竹
薄暮冥冥煙雨深 薄暮冥々煙雨深し

優良賞 岡田一郎
 晩春有感    晩春有感
老松高聳浴春光 老松高く聳え春光を浴び
燕子歸來一草堂 燕子帰来す一草堂
師友論詩無限興 師友詩を論じて無限の興
揮毫半日俗情忘 揮毫するすること半日俗情忘る



令和四年度全日本漢詩連盟設立二十周年記念大会 会員受賞作品

二松学舎大学学長賞 高橋純子
 江都雪景     江都雪景
月冷深更雪已収  月冷やかにして深更雪已に収まる
朔風吹袂水邊樓  朔風 袂を吹く 水辺の楼
皚皚九陌人蹤絶  皚々たる 九陌 人蹤絶え
只見墨江分二州  只だ見る 墨江の二州を分かつを

日本詩吟学院賞  五嶋美代子
 不懷都      都を懐はず
山如高閣聳嶙峋  山は高閣の如く聳へて嶙峋 
鳥若街衢喧噪頻  鳥は街衢の若く喧噪なること頻りなり
京邑遙遙千里外  京邑 遥々 千里の外
何愁漫叟不逢人  何ぞ愁へん 漫叟 人に逢はざるを

斯文会理事長賞  廣田雅人
 都城大雪    都城の大雪
亂飄雪後靜無風  乱飄の雪後 静として風無く
紫陌高樓一白中  紫陌 高楼 一白の中
日出雲端光曄曄  日 雲端を出づれば 光 曄々
都城忽變水晶宮  都城 忽ち変ず 水晶宮に

秀作 大野若人 
 京洛旗亭聽琴  京洛の旗亭に琴を聴く
京洛旗亭夜色深 京洛の旗亭 夜色深し
樂師閒坐奏鳴琴 楽師 閑坐して鳴琴を奏す
五音淸響寒燈下 五音 清らかに響く 寒灯の下
遊客方知千古心 遊客 方に知る 千古の心

入選 松本祐輔
 都城春景    都城の春景
天晴風暖柳絲垂 天晴れ 風暖かくして 柳糸垂る
盎盎春光到處宜 盎々たる春光 到る処宜し
爛漫櫻花絳葩舞 爛漫たる桜花 絳葩舞い
御溝水碧更增奇 御溝水碧にして更に奇を増す  

入選 水城まゆみ
 過山紫水明處   山紫水明 処に過る
東山山麓鴨川西  東山山麓 鴨川の西
詩伯舊居茅屋低  詩伯の旧居 茅屋低し
猶見書齋翻筆墨  猶お見る 書斎 筆墨翻るを
水天一髪壁閒題  水天一髪 壁間の題

入選  横溝喜久男
 鎌臺古道名越切通  鎌台の古道 名越切通 
鬱蒼樹蔭草莱繁  鬱蒼たる樹蔭 草莱繁く
綠蘚巨巖妨駿奔  緑蘚の巨巖 駿奔を妨ぐ
曾是牙城要衝徑  曽て是れ牙城 要衝の径
今無人訪鳥聲喧  今 人の訪う無く 鳥声喧し


令和4年度第七回漱石記念漢詩大会 会員受賞作品

佳作 高橋純子
 客中送春     客中春を送る  
夜來風雨洗芳菲 夜来の風雨 芳菲を洗い
江上花流春自歸 江上の花は流れて 春 自ら帰る
殘露濕衣津渡曉 残露 衣を湿す 津渡の暁
新鵑掠月一聲飛 新鵑 月を掠めて 一声飛ぶ

佳作 小嶋明紀子
 旅館寒燈    旅館の寒灯
客中除夕與誰親 客中 除夕 誰とか親しまん
半夜窓前獨愴神 半夜 窓前 独り神を愴ましむ
欲作家書多暗淚 家書を作らんと欲して暗涙多し
孤燈空照望鄕人 孤灯 空しく照らす 郷を望むの人

入選 宇野次郎
 立秋卽事    立秋即事
空庭氣爽雨初収 空庭気爽やかに雨初めて収まる
籬畔蟲鳴夜色幽 籬畔に虫鳴き夜色幽なり
獨坐小齋燈火下 独り坐す小斎灯火の下
讀書三昧散人秋 読書三昧 散人の秋

入選 牛山知彦       
 湖上望嶽    湖上望岳
客中又訪舊山莊 客中又旧山荘を訪れれば
窗近淸湖六月涼 窓は清湖に近く六月涼し
仰首靈峰在天上 首を仰げば霊峰天上に在り
雄姿倒影水中央 雄姿影を倒にして水中央

入選 松田奈月
 亡友挽歌    亡き友への挽歌
靑山獨步悼君行 青山独り歩して君を悼みて行けば
一片白雲天更淸 一片の白雲天更に清し
墳樹綠陰埋骨處 墳樹の緑陰 骨を埋むる処
香風蝶舞百花明 香風に蝶舞いて百花明らかなり

入選 横溝喜久男
 秋日閑遊     秋日閑遊
扶筇來賽寺門頭 筇に扶り来賽 寺門の頭
映發靈葩赤蒜稠 映発の霊葩 赤蒜稠し
風冷夕曛如惜刻 風冷やかに夕曛刻を惜しむ如く
秋蜩切切誘閑愁 秋蜩切切閑愁に誘う


令和4年度第十四回諸橋轍次博士記念漢詩大会 会員受賞作品

最優秀賞・三条市長賞 高橋純子
 晩秋郊行     晩秋郊行
深秋小徑曉寒生 深秋の小径 暁寒生ず
風拂幽叢香氣淸 風は幽叢を払いて香気清し
誰折一枝供古墓 誰か一枝を折りて古墓に供せる
傲霜白菊映苔明 霜に傲る白菊 苔に映じて明らかなり

優秀賞 小嶋明紀子
 登樓對雪     楼に登りて雪に対す
閒憑危檻眺天涯 閑に危檻に憑りて 天涯を眺む
滕六忽來風雪斜 滕六 忽ち来りて 風雪斜めなり
晩霽冰輪初照處 晩霽 氷輪 初めて照らす処
一城鴛瓦著銀花 一城の鴛瓦 銀花を着く

秀作 宇野次郎
 新秋夜坐     新秋夜坐
雨洗殘炎天地淸 雨 残炎を洗ひて 天地 清し
芸窗風爽動吟情 芸窓 風爽やかにして 吟情を動かす
熒然燈火披書卷 熒然たる灯火 書巻を披く
促織啾啾籬落鳴 促織 啾啾 籬落に鳴く

秀作 小嶋明紀子
 古寺黃昏     古寺黄昏
苔蹊策杖到禪門 苔蹊 杖を策きて禅門に到る
老衲未歸寒鳥喧 老衲 未だ帰らず寒鳥喧し
佇立堂前幽寂處 佇立す 堂前 幽寂の処
風翻貝葉欲黃昏 風は貝葉を翻して黄昏ならんと欲す

秀作 杉森千枝美 
 思母       母を思ふ
兩閒茅屋在山阿 両間の茅屋 山阿に在り
去國徒驚三載過 国を去りて徒に驚く 三載過ぐるに
聞説家慈衰老甚 聞説く 家慈 衰老甚だしと
向寒眠食近如何 向寒 眠食 近ごろ如何

佳作 杉森千枝美
 暇日       暇日
寒村茅屋兩三閒 寒村の茅屋 両三間
無客無書盡日閑 客無く書無く 尽日閑なり
京國披圖頻想像 京国 図を披きて頻りに想像す
膏車何日出鄕關 膏車 何れの日にか郷関を出でん

日中友好の部 佳作 牛山知彦
 秋夜西安宴   秋夜 西安の宴
寂寂鐘樓還舊觀 寂寂たる鐘楼 旧観に還り
亭亭明月發新光 亭亭たる明月 新光を発す
如今中日交流宴 如今中日交流の宴
詩客醉吟歡笑長 詩客酔吟して 歓笑長し

日中友好の部 佳作 小嶋明紀子
 榮西禪師     栄西禅師
入宋看經一衲衣 宋に入りて看経す 一衲衣
傳來茗飮與禪機 伝え来たる 茗飲と禅機とを
猶存京洛建仁寺 猶ほ存す 京洛の建仁寺を
千載依師映曉暉 千載 師に依りて暁暉に映ず

日中友好の部 佳作 杉森千枝美
 祝日中國交囘復五十年 日中国交回復五十年を祝す
中朝文物古來傳 中朝の文物 古来 伝はる
學術相追今昔賢 学術相い追ふ 今昔の賢を
囘復修交過半百 修交を回復して半百を過ぐ
雙邦友誼久彌堅 双邦の友誼 久しく弥いよ堅からん

令和4年度初心者入門講座 新たな仲間が神漢連に入会

令和四年度初心者入門講座は五月十日から六月十七日の間全五回の日程で開催されました。コロナ禍がくすぶり続ける中、応募された十四名の方は一名の脱落者もなく、終始熱心に受講され、神漢連伝統の寺子屋個人指導では、活発な意見交換で七絶実作に取り組みました。 本年度の特徴としては、女性が八名、男性六名と初めて男女比が逆転し、年齢的にも八十代半ばから、現役女子大生までバラエティに富んだ構成となり、また台湾出身の方もおられ名詩鑑賞の際は中国語による朗読を披露いただくなど、受講生は漢詩の奥深さを実体験できる内容となりました。また、既会員三名に加え、講座中に八名の新加盟の登録を済まされるなど、たいへん意欲的です。最終日の卒業詩の講評で表彰された作品は次の通りです。(新井治仁)

最優秀賞   大澤豊照   
 梅雨書懷     梅雨懐いを書す
陰陰茅舎慰衰翁 陰々たる茅舎 衰翁を慰む
連日寂寥煙雨濛 連日寂寥として 煙雨濛たり
友到論詩茶換酒 友到り詩を論じ茶を酒に換う
虎溪三笑興無窮 虎渓三笑 興 窮まること無し

優良賞   小島数子
 梅天偶成      梅天偶成
旦晝梅天花朶低 旦昼梅天 花朶低る
故園亦是雨凄凄 故園も亦た是れ雨凄々たらん
無端月照晩呈霽 端無くも月照り晩に霽れを呈す
蜀鳥思歸何不啼 蜀鳥 帰るを思い 何ぞ啼かざる

佳作   内山早奈江
 夏日海村     夏日海村
松風淸爽水禽鳴 松風清爽として 水禽鳴く
島影蒼茫釣艇橫 島影蒼茫として 釣艇横たう
斜日客歸魚忽躍 斜日客は帰し 魚忽ち躍る
遊人忘刻一身輕 遊人刻を忘れ 一身軽し

佳作   山本孝司
 山門坐禪    山門に坐禅す  
友吟聲浴佛光 会友 吟声 仏光に浴す
山門殘雪坐華堂 山門残雪 華堂に坐す
莊嚴老樹添風趣 荘厳たる老樹 風趣を添う
盡日論詩對夕陽 尽日詩を論じ 夕陽に対す


令和4年度研修会  十期以降の新世代が大活躍

本年度の研修会は、三年ぶりに四月二十一日、神奈川近代文学館にて十九首の投稿で開催されました。
感染症下、一グループでの開催となりましたが、オブザーバーを含め十八名で、ベテラン、若手と、サークル横断的な顔ぶれとなりました。作者を伏せて全投稿詩を事前に配布、自由に参加者の解釈、疑問点をぶつけ合うという討議方式は従来と同じで、題材も大河ドラマのテーマを始め、紀行詩、日常詩など多彩な詩評の交換を楽しむことができました。
印象的だったのは、伝統的な漢詩の語法、用例にできるだけ忠実に沿いながら、絶句を物語として構成すべきとの意見と、作者の心象を反映した詩語の並びを大切にして、書き下しの工夫でワイドな表現を目指しても良いのでは、との両論が出されたことで、日頃そのはざまで詩作する参加者が多いと感じた次第です。
その後、恒例の選句投票結果が発表され、次の通り表彰、賞品授与されました。(新井治仁)

優秀賞         志詩会  木村 孝
 聽講演曹操悲哀 講演曹操の悲哀を聴く
瞻望天海港丘陘 天と海を瞻望す 港丘の陘
萬朶瓊葩風遍馨 万朶の瓊葩 風遍く馨し
佳日重陽文學館 佳日重陽の文学館
英雄朗詠夢中聽 英雄の朗詠 夢中に聴く

優良賞        十期会  細江利昭
 雨水訪山上梅園 雨水 山上の梅園を訪う
馥郁梅花春氣柔 馥郁たる梅花 春気 柔らかなり
淸香飄動掩山邱 清香 飄動して 山邱を掩う
遠望滄海連蒼昊 滄海を遠望すれば 蒼昊に連なる
好弄東風盡日遊 好し東風を弄して 尽日遊ばん

佳作賞         金星干支会  五嶋美代子
 鳴子峽霜楓   鳴子峡霜楓
淸幽山氣上河梁 清幽なる山気は河梁を上り
眼下深溪仰碧蒼 眼下の深渓は 碧蒼を仰ぐ
靑女來臨秋十里 青女 来臨して 秋十里
須敎萬樹競紅粧 須らく万樹をして紅粧を競わしむ

佳作賞         詩林会  白石信隆
 春汀卽事     春汀即事
風軟沙汀淑氣盈 風軟らかにして沙汀 淑気盈ち
趁魚白鷺羽翎輕 魚を趁う 白鷺 羽翎軽し
鸕鶿潜水忽鈔餌 鸕鶿(ろじ)潜水して忽として餌(じ)を鈔(かすみとれ)れば
看客中心僅不平 看客の中心僅かに平らかならず

特別賞         逸語会  松田奈月
 芳酒塵洗     芳酒塵洗ふ

夜来風雨落黄梅 夜来の風雨 黄梅落つ
朝拾清香醸酒材 朝に清香を拾いて酒材に醸す
避密一年猶愛酔 密を避け一年 猶酔うを愛し
隔牆呼友盡余杯 牆を隔てて友を呼び余杯を尽さしめん

過去のオンライン吟行会

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◎ 優句 ◯秀句 ● 参加者による人気投票1位 ◉ 優句で人気投票1位 ◐秀句で人気投票1位





2024.2.26 新入会員歓迎オンライン吟行会「港」





2023年8月24日「横浜夏景」

優句◎ 秀句○ 人気句●です。





2023年2月27日新入会員歓迎会オンライン吟行会「梅林春信」


2022年8月31日オンライン吟行会「尾瀬散策」

2022年3月28日 オンライン吟行会「千鳥ヶ淵」


神奈川県漢詩連盟は2021年10月に創立15周年を迎え、これを記念する企画のひとつとして10月12日、インターネット集会・メールを利用して自宅から参加できる吟行会を開催しました。また、郵送での吟行会も9月中に併せて行い、結果を発表しました。
こちらが15周年記念オンライン吟行会のスライドショーです。オンライン吟行地は鎌倉です。
◎ 優句 ◯秀句 ● 参加者による人気投票1位 ◉ 優句で人気投票1位 郵送吟行会の結果はこの下です 。


こちらが15周年記念郵送吟行会のスライドショーです。郵送吟行地は箱根です。◎ 優句 ◯秀句


こちらは、8月30日に行われた猊鼻渓オンライン吟行会のスライドショーです。
◎ 優句 ◯秀句 ● 参加者による人気投票1位 ◉ 優句で人気投票1位 ◐秀句で人気投票1位


こちらは8月3日10期から14期サークル限定の丹沢オンライン吟行会のスライドショーです。
◎ 優句 ◯秀句 ● 参加者による人気投票1位 ◉ 優句・秀句で人気投票1位


こちらは6月28日十和田湖・奥入瀬オンライン吟行会のスライドショーです。


こちらは5月24日の浅草オンライン吟行会のスライドショーです。


こちらは4月26日の江の島オンライン吟行会のスライドショーです。

令和3年度 『扶桑風韻』漢詩大会 受賞作品

 

秀作 高橋純子
 聖堂春雪    聖堂春雪
料峭風寒聖廟晨 料峭として風寒き 聖廟の晨
霏霏六出淨無塵 霏霏たる六出 浄くして塵無し
幽香冷蕊來何處 幽香 冷蕊 何れの処より来る
入德門前已有春 入徳門前 已に春有り

秀作 水城まゆみ(翠香 )  
 廬山懷古    廬山懐古
香爐峰下訪茅堂 香炉峰下 茅堂を訪う
翠竹靑松花吐芳 翠竹 青松 花 芳を吐く
司馬題詩千歳後 司馬 詩を題して 千歳の後
匡廬白雪尚難忘 匡廬の白雪 尚お忘れ難し

佳作  杉森千枝美    
 過駱駝城遺跡  駱駝城遺跡に過る
千里關山夕照開 千里の関山 夕照 開き
空餘故壘略傾頽 空しく余す 故塁の略ぼ傾頽せるを
豈知昔日繁華地 豈に知らんや 昔日 繁華の地たりしを
今者遊禽獨往來 今者 遊禽 独り往来す

入選  岩村順一  
 關原戰跡    関原戦跡
群雄激戰乱軍聲 群雄 激戦 乱軍の声
流血僵尸草木腥 流血 僵尸 草木腥し
看盡風光山不語 風光 看尽くせども 山語らず
夕陽西下見飛螢 夕陽 西に下りて 飛蛍を見る

入選  大谷明史  
 塞上曲        塞上曲
沙場關塞幾千兵 沙場 関塞 幾千の兵
獵獵旌旗鼓角聲 猟々たる旌旗 鼓角の声
今日荒臺崩壁寂 今日 荒台 崩壁 寂たり
朔風吹草日將傾 朔風 草を吹きて 日 将に傾かんとす

入選  小嶋明紀子 
 秦淮      秦淮
獨來古渡舊蹊空 独り古渡に来たれば 旧蹊空し
六代興亡一瞬中 六代の興亡 一瞬の中
今眺秦淮沙上月 今眺む 秦淮沙上の月 
寒風十里聽征鴻 寒風 十里 征鴻を聴く

 


第六回漱石記念漢詩大会・熊本 受賞作品

入選  高橋純子
 梅雨      梅雨
旬日冥濛水墨天 旬日冥濛 水墨の天
鳴蛙閣閣雨綿綿 鳴蛙閣閣 雨綿綿
午餘掩巻開窗牖 午余巻を掩いて窓牖を開けば
含露石榴丹欲然 露を含んで石榴丹然えんと欲す 

入選  柴本信子
 江都晩景    江都晩景
春雪盈城似畫圖 春雪城に盈ち画図に似て
墨東高塔晩晴孤 墨東の高塔 晚晴に孤なり
回頭富嶽皚皚聳 頭を回らせば富岳皚皚と聳え
斜雁翩翩度帝都 斜雁翩翩として帝都を度る


第13回諸橋轍次博士記念漢詩大会 神漢連会員の受賞作品

優秀賞  大谷明史
 松林小徑    松林の小径
空林緩步午風輕 空林 緩歩すれば 午風 軽し
幽翠山中絶鳥聲 幽翠の山中 鳥声絶ゆ
偶聽近邊松子落 偶たま聴く 近辺に松子の落つるを
梢頭瞻仰白雲行 梢頭 仰ぎ瞻(み)る 白雲の行くを

秀作  大石加代子
 花枝圓月     花枝円月
春宵燈下暗香流 春宵 灯火 暗香 流る
月照庭前花影幽 月は庭前を照らして 花影 幽なり
病臥閨中慰衰老 閨中に病臥して 衰老を慰む
横斜一朶紙窗浮 横斜一朶 紙窓に浮かぶ

佳作  岡田泰男
 觀螢      蛍を観る
流行描篆雅無雙 流行して 篆を描き 雅 無双なり
闇闇昏昏不聽蛩 闇闇 昏昏 蛩(きょう)を聴かず
點滅映眸成炯眼 点滅 眸(ひとみ)に映ずれば 炯(けい)眼(がん)と成る
叟崇車胤說螢窗 叟(おきな)は車胤を崇(あが)めて 蛍窓を説く

佳作  高田宗治
 東日本大震災十周年 東日本大震災十周年
避難十年悲未消 難を避くること 十年 悲しみ 未だ消えず
病魔更襲意萎凋 病魔 更に襲ひて 意 萎凋(ゐてう)す
復興雖捗歸還少 復興 捗むと雖も 帰還 少なし
何日安寧翹望遙 何れの日にか安寧なる 翹望(げうばう) 遥かなり

佳作  宇野次郎
 自慶八秩    自ら八秩を慶ぶ
八秩年頭處處新 八秩(はつちつ) 年頭 処処 新(あらた)なり
書窗梅發草堂春 書窓 梅 発きて 草堂 春なり
開樽獨酌香風裏 樽を開きて独り酌む 香風の裏
獺祭尋詩老散人 獺祭 詩を尋ぬ 老散人

佳作  俣野長生
 義滿公手植陸舟松 義滿公手植の陸舟の松
北山淨境印閒蹤 北山の浄境 閑蹤を印す
翠蓋龍松詩趣濃 翠蓋の竜松 詩趣 濃やかなり
金閣池庭苔石上 金閣の池庭 苔(たい)石(せき)の上
含烟暮景洗塵胸 煙を含む暮景 塵胸を洗ふ

奨励賞  牛山知彦
 偶感      偶感
杖鄕致仕此身閒 杖郷 仕を致して 此の身 閑なり
車馬衣冠都棄捐 車馬 衣冠 都(すべ)て棄捐す
翰墨朗吟耽讀好 翰墨 朗吟 耽読 好し
從心所欲樂殘年 心の欲する所に従ひて 残年を楽しむ



令和3年度 全日本漢詩大会 石川大会 神漢連会員の受賞作品

日本漢詩連盟会長賞 石川俊之
 奈良公園     奈良公園
高天淸朗古都秋  高天清朗古都の秋
霜葉飄風舞寺樓  霜葉風に飄りて寺楼に舞う
寂寞四邊林囿路  寂寞たる四辺林囿の路
哀聲遠聽鹿呦呦  哀声遠く聴く鹿呦々
     

秀作 高橋純子
 雨後庭園     雨後庭園
日午庭園宿雨收  日午の庭園宿雨収り
殘花落盡古池頭  残花落ち尽す古池の頭
露垂籬畔無人過  露垂る籬畔に人の過ぐる無く
唯見鳧雛逐母游  唯だ見る鳧雛の母を逐いて游ぐを


入選 大石加代子
 禁城春雪     禁城春雪
御溝飛雪帶春風  御溝の飛雪春風を帯び
瞬息落波銀白空  瞬息波に落ちて銀白空し
苑樹靚妝唯一刻  苑樹の靚妝唯だ一刻
黄鶯他日語玲瓏  黄鶯他日語は玲瓏

 
入選 横溝喜久男 
 熱海梅園     熱海梅園
林泉暄燠淨無塵  林泉暄燠浄く塵無く
極目花魁麗色新  極目花魁麗色新たなり
萬朶芳菲鶯語巧  万朶の芳菲鶯語巧みに
詩朋悦樂滿園春  詩朋悦び楽しむ満園の春




令和2年度第十九号 扶桑風韻漢詩大会 神漢連会員の受賞作品

      
優秀作品 高橋純子 
  海畔卽事     海畔即事
松風謖謖送淸涼  松風 謖々として 清涼を 送り
碧海渺茫潮氣香  碧海 渺茫として 潮気香し
鷗語數聲回首處  鴎語 数声 首を回らす処
漁舟一片入斜陽  漁舟 一片 斜陽に入る

秀作 山口幸雄
  湖上舟遊    湖上舟遊
素手把橈操小舟  素手 橈を把って 小舟を操り
紅唇吐息憩中洲  紅唇 息を吐いて 中洲に憩う
佳人一去今何處  佳人 一たび去って 今は何れの処か
懷舊湖邊已晚秋  懐旧の 湖辺 已に晩秋

佳作 大谷明史
 琵琶行妓女舟中吟  琵琶行妓女舟中吟
潯陽江上夜停舟  潯陽 江上 夜舟を停む
傍見兩三輕舫浮  傍らに見る 両三の 軽舫浮かぶを
坐想京城昔年事  坐に想う 京城 昔年の事
琵琶欲撥月華秋  琵琶 撥せむと欲す 月華の秋

入選 岩村順一
 滿州葫蘆島乘遣返船  満州葫芦島にて遣返船に乗る
艱辛始到碼頭邊  艱辛 始めて到る 碼頭の辺
困憊窮民默上船  困憊せる 窮民 黙して上船
祖國眼前生疫病  祖国 眼前 疫病生ず
幾多溘逝淚潸然  幾多 溘逝 涙潸然たり

入選 五嶋美代子
 泛舟游     舟を泛べて游ぶ
早晨淡靄放輕舟  早晨 淡靄 軽舟を放つ
鼓枻孤行碧似油  鼓枻 孤行 碧油に似たり
停息湖心天籟裏  湖心に 停息す 天籟の裏に
前山倒影入雙眸  前山の 倒影 双眸に入る

入選 杉森千枝美
 奉母遊函嶺泛蘆湖  母を奉じて函嶺に遊び芦湖に泛かぶ
納涼此地第三回  此の地に納涼するは 第三回
話舊倚舷風快哉  旧を話すに 舷に倚れば 風快哉たり
母鬢雙皤吾亦爾  母の鬢 双皤く 吾も亦爾かり
明年强健更重來  明年 強健ならば 更に重ねて来らん

入選 水城まゆみ
 夏日舟遊    夏日舟遊
避暑蘆湖泛畫船  避暑の 芦湖 画船を泛べ
水光瀲灔弄晴姸  水光 瀲灔として晴妍を弄す
檣頭颯颯涼風渡  檣頭 颯々 涼風渡り
一朶芙蓉開碧天  一朶の 芙蓉 碧天に開く